だらだらウィルス、感染拡大中！？｜リアクション

だらだらウィルス、感染拡大中！？

●序（１）

　街で偶然出会った親しい友人と少しお喋りをし、別れて間もなくのこと。
　鴻上彰尋は、後ろからとん、と背を叩かれた。
「よぉ、鴻上！　なんか機嫌よさそうだなぁ？」
「っ、楢木……！」
　ニヤニヤ笑いを浮かべて立っていたのは、楢木春彦だ。
「もしかして……見てた？」
「うん？　何のコトだろーなぁ？」
　からかうような口調で言って、彰尋の胸をごく軽く小突く春彦。
　彰尋が、状況を打開せんと、何か言葉を零そうとしたその時だ。
「んぁ？　……何だ？」
　春彦が、先ほどまでとは色の異なる声で言った。
　すぐに彰尋も、春彦の視線を追う。
　いつの間にか２人の周りに、虚ろな目をした、尋常でない様子の人間達が集まり始めていた。
「……楢木、行こう」
「へ？　逃げんのかよ？」
「状況が読めなさすぎる。一時撤退」
　人垣を薙ぐようにして、走る、走る。
　２人の頭に、人々のおぞましいような叫びをかき消すようにして、テオの声が響いた。
「《カオル・ウィルス》ってなんだそりゃ！？」
「とりあえず、学校に避難しよう」
「わかった。こっから近いもんな」
「それに、休みの日だから感染者の数も少ない……かも」
　かくして、春彦と彰尋は休日の寝子高へととび込んだのだった――。

　一方、水上桜は既に寝子高の廊下にいた。
　用事があって学校を訪れた……ただ、それだけだったはずなのに、
（またフツウかぁっっっ！！！）
　いつの間にか切り分けられた世界、感染者に囲まれたその只中で、桜は心中に叫んだ。
　しかし桜は、怒りに震える拳を、己の力で抑えつける。
（ここで暴れても結局無意味だし、それに、何だか負けた気がする……！）
　一つ息を吐き、平静を取り戻す桜。
　そうして彼女は、ごろん、と冷たい廊下の上に寝そべった。
「あー、だらだらするのって気持ちいいー」
　このまま寝ちゃおうかなー、なんて嘯きながら仰向けに転がって辺りに視線を走らせれば、
（……上手く行ったみたい？）
　感染者達は、「じゃあ解散」とばかりに各々のだらだらタイムへと戻っていくところで。
（……武器、探しに行かないとなあ）
　一先ず感染者達をやり過ごした桜は、天井を見つめながら、深く息を吐いた。

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