だらだらウィルス、感染拡大中！？｜リアクション

だらだらウィルス、感染拡大中！？

●序（２）

　倉前七瀬は、シーサイドタウンでテオの声を聞いた……の、だが。
（たぶん、気のせいでしょう）
　周りを見ても特にいつもと変わっとらんようですし、と、七瀬の緑の双眸は判じた。
　実際は、そこかしこにだらだら感染者が溢れているのだが、七瀬は全く気付かない。
　そしてまた、七瀬が感染者に襲われることもない。
　何せ彼は、なんとなーく、目的もなしに街をぶらついているところなのだから。
　そのマイペースさは、感染者達の監視の目を、七瀬に微塵も向けさせなかった。
　そう、その瞬間までは。
「……おや、あれはウォルター先生？」
　少し離れたところに、見間違えようもない、癖のある金の髪が覗いて、七瀬は声を漏らした。
（こんなところで会うなんて、嬉しいですね）
　偶然出会った憧れの先生に、声をかけたい。
　そう思って歩を進める足に先よりも幾らか力が入れば、次々に七瀬に襲いかかる感染者達。
「あ、すみません、どいてくださいー！」
　早く先生と話したい！　という《パッション》が、意図せずして感染者を退ける。
「邪魔せんでくださいってばー！」
　何故か寄ってくる通行人達（七瀬視点）を押し退け、知らず浄化し、やがて七瀬は、
「先生、なんしとーとですか？」
　と、ウォルター・B先生に声を届けることに成功した。
　シュッ！　とチョークを飛ばして感染者を撃退したウォルター先生が、
「……倉前？」
　驚いたように、綺麗な青の瞳を瞬かせる。
「あ、僕は、街ぶらの途中やったとですけど……」
「っ、僕の教え子に手を出すな！」
　らしくなく切羽詰まった声を出したウォルター先生が、七瀬の方へとチョークを飛ばす。
　魔弾は七瀬の頬を掠って、背後に迫っていた感染者を一撃で倒した。
「えっと……もしかして、非常事態やったとですか？」
　振り返って、また、ウォルター先生へと眼差しを遣って、七瀬はきょとりと問う。
　ウォルター先生が、「相変わらずだねぇ」という調子で少し笑って、頷いた。

　テオの声を聞いてから、新田樹の胸は、ずっとわくわくしっぱなしだった。
「これぞ私が求めていたパニックホラー！　……とは少し違うけど、こまけぇこたぁいいんだよ！」
　準備を整える為に一旦家へと戻った樹。
　しかし一歩外に出れば、そこにはスリルと熱いバトルが、両手を広げて待っているのだ！
「思いっきり楽しも♪　ええっと、エアガンは必須でしょ？　それから……」
　武器を手に持ち、秘密兵器の詰まったリュックサックを背負えば、準備は万端。
「できるだけ感染者の多い場所へ行った方がいいかな？　だったら……シーサイドタウン、とか？」
　窓から、外の様子を眺める。
　ここぞとばかりにだらだらしている感染者達の姿が目に入って、樹は頬を緩めた。
「じゃあ……出発しちゃおっかな！」
　背中で、リュックサックの中身が、じゃらりと鳴る。
　樹は遠足にでも出かけるような気軽さで、機嫌よく家を出た。

このページにイラストを設定する