もふもふ！大型幻獣と遊ぼう！｜リアクション

もふもふ！大型幻獣と遊ぼう！

　仙藤紫は、常のように大学の講義を受けに行く――はず、だった。
　それなのに、気付けば、辺りからは人の気配が消え。
　代わりに、不意に影が差したと見上げた空には、見覚えのある獣が飛んでいる。
「あれは……翼獣……？」
　テオの声が耳に響いたのは、その時だった。
　状況を把握して、細く息を吐く紫。
　先のように険呑な事態でないらしいことだけは有り難いが、
（彼らが元の世界に戻るまで一日はかかる……となると、何をどうすればいいのかしらね……）
　当たり前だが、切り分けられたこちら側の世界では大学の講義は行われないだろう。
　紫が途方に暮れかけた、その瞬間。
　くくる、と、すぐ近くで甘えるような鳴き声がして、紫はハッとなった。
　若い翼獣が、いつの間にか紫の傍らに寄ってきている。
（この子、誰？）
　紫が考えている間にも、翼獣は、懐っこく紫に身を擦り寄せてきて。
　危害を加えてくるような様子が一切ないのを見て取って、紫は、その背をそっと撫でてやった。
　翼獣の喉が、気持ち良さそうにのびのびと鳴る。
　紫を見遣る眼差しが帯びるのは、懐かしい誰かにふと出会ったような、あたたかい色だった。
　温もりを直に感じているうちに――紫は、ぱっと火花が散ったように気付いた。
「もしかしてあなた……この前の子？」
　翼獣の瞳に、ぴか、と益々の喜びの色が灯る。
　尻尾をぴんと立てて、翼獣は、一層嬉しげに紫へと身体を寄せた。

「そう、覚えていてくれたのね」
　紫だって、覚えている。
　翼獣達の世界で行動を共にした、女の子の翼獣だ。
　自分に愛くるしく甘えてくる翼獣の様子に、紫の唇が柔らかく綻んだ。
　何とはなしに、今ここにはいない妹のことが思い出されて、それで。
「そういえばあなた、名前はあるの？」
　紫が問うと、翼獣はちょっぴり不思議そうな顔になって「く？」と首を傾けた。
「そう、あなたにはまだ名前がないのね。名前なしというのも呼びにくいし……」
　口元に手を宛がって、少し考える。
「……モモ。モモはどうかしら。桃色のモモ」
　零せば、その意を察した翼獣は、くるくるくうくう機嫌良く鳴いた。
「じゃあ、これからはモモって呼ぶわね。ねえ、モモ。あなた、やりたいことはある？」
　翼獣――モモは、迷うことなく、紫へと己の背を目線で示してみせる。
「乗って……って、ことよね？」
　その背にふわりと跨れば、モモは、軽やかにぐんと宙へ舞い上がった。
「寝子島を見て回りたいのね？」
　くるる！　と元気良く応じたモモの首にしがみ付いて、
「なら、案内するわ。まずは……ほら、こっち」
　と、紫は、声と触れる手とでモモへと指示を出す。
　自分が通う大学、シーサイドタウンの様々の施設、旧市街の参道商店街や漁港。
　どこか煌びやかに感じられる星ヶ丘の風も存分に感じたあとで、
「モモ、私のお気に入りの場所も、教えてあげる」
　と、紫はモモを誘い、三夜湖の湖畔へと降り立った。
　登山道から少し離れたところにある岸辺は、しんとした空気を纏っている。
「ここはね、普段からあまり人が来ないの。ごくたまに……一人になりたいときに、訪れる場所」
　モモの背を柔らかく撫でて、「少し疲れたわね」と微かに笑む紫。
　紫が腰を下ろせば、モモもそれに倣って。
　だから紫は、モモのあたたかく大きな身体にもたれかかることができた。
「ふふ、気持ちいい。よく眠れそうね」
　木漏れ日が、はらはらと踊る。
　優しい陽射しの下、紫はモモと共に、うとうととまどろんだ。