我楽多堂の四季彩インク｜リアクション

我楽多堂の四季彩インク

「ムム……？　Is this a pen？」
　五月の陽気に誘われて、一人ふらふらと冒険に出た先で
トワ・E・ライトフェロゥは我楽多堂に立ち寄った。
そこで目にした羽の付いたペンは、まるでおとぎ話に出てくる魔法のアイテム。
一目で気に入ったトワはペンを大事に握りしめて旅路を歩く。

トワの空想の中で、魔法のペンは盾にも、剣にも、良き相棒にも変化した。
野良猫の無邪気な視線からトワを守り、トワの行く道を遮る生垣を切り開き、
花が揺れていれば優しくトワに語りかける……ような気がした。
そんなペンの声に導かれ、トワはふと思い立って
ペンの先を自分の服の裾に押し付けた。
ペンについていた白い羽は、
みるみるうちにトワの服と同じ色に染まってゆく。
「Oh！　当てると色がつくマス！」
　驚いたトワは手近な茂みや小石、花などにペン先を押しあてて、
羽が様々な色に染まっていく様子を観察した。
「突くと色のつく fantasy pen デス？
wonderful action できるマス！」
　好きなものを好きな色で自由に描けるということにトワは大喜び。
「ん～、何を描こうかーデス。
でーはー、コレをー……」
　早速、大きめの紙を用意して自由に絵を描こう、と紙にペンを押し付けた瞬間、
羽は紙の色を吸い上げ、真っ白に戻ってしまった。
どうやら、専用の用紙でないと紙の色を吸い上げてしまうらしい。
「ヌヌ、別のものに付けるとその色になるので
この紙にしか描けないってそゆ意味デシタカー」
　我楽多堂でもらった専用用紙を手に、トワは残念そうな声を上げる。
このペンでたくさん絵を描いて遊ぼうと思ったのだが、
どうやらそれは叶わないらしい。
「残念、デス……」
　仕方なく大きい紙へのお絵かきは中止にして、
手にしたハガキサイズの紙に描けそうなものを考える。
「ソデスネー……」
　手にしたペンであちこちをつついて色を吸い取り、
同じく手にした紙と見比べながらトワの寝子島探検は続く。
寝子島は広くいつも驚きに満ちていて、こうして毎日散歩していても
歩くたびに目新しい発見があったり、冒険の気配がしたりして
トワの好奇心を刺激し続けている。
いっそ、寝子島のこんなものがあったら面白いと普段から考えているものを
絵にしてみるのもいいかもしれないと、
トワは今度こそ明確な意思を持って羽ペンに五月の青空を宿らせた。
「まずはネコジマ、catからー」
　さて、ハガキサイズの用紙に描かれたのは、手の動くまま気の向くまま。
こちらをじっと見つめる空色の猫、炎の代わりに風を吐き出す生垣色のドラゴン。
歌って踊る色とりどりの花々や、財宝が隠された雲色の大邸宅。
描き出した手は止まることなく一枚目を様々な冒険の足跡で埋めつくし、
そのままの勢いでトワは二枚目の紙にも手を伸ばす。
虹の川を渡る船を描きそのまま海へと漕ぎ出せば、
銀色に光る鱗で空を飛ぶ魚と、太陽色の翼で海の中を泳ぐ鳥。
「んん～、goodデスねえ。
トワのー、今日の冒険譚としてはいい参考例になるかとー」
　色も形も突拍子もなく、荒唐無稽にも思えるが、
トワが探索してきた寝子島の楽しさはこんなものではなかった。
その楽しさをより分かりやすく伝えるために必要な、
いわばフィクション・ファンタジー的手法といえよう。
「ヌヌヌ、二枚じゃ描ききれないデス」
　思いつくままに描き散らした絵はあっというまに二枚のハガキを埋め尽くし、
トワの見た冒険をいきいきとした色で表現してくれていた。
トワは冒険の記録を大切にしまい込むと、
また新たな冒険をもとめて旅に出たのだった。