摩訶不思議、寝子高龍！｜リアクション

摩訶不思議、寝子高龍！

●埋もれる！　黒白の子猫珠

　ところ変わって体育館。
　かまぼこ型の天井付近を、白と黒の子猫珠が飛びまわっている。他の色の子猫珠は、まあるい体から猫のような長いしっぽが生えているのが特徴だが、この白と黒の子は、胴としっぽが一続きになってだんだん細くなるという勾玉のような形をしていた。胴のあたりには対になる灰色のリボンが括られており、白と黒が分かちがたい双子のような存在であることが見て取れる。
　体育館には四人の姿があった。
「黒子猫さんも、白子猫さんも……可愛い……！」
　片手に橙色布製猫パペット『ハルくん』を嵌めて、虫取り網を構えているのは恵御納夏朝。夏朝のそばで、グレーの生地に緑の瞳に鈴のついた赤いリボンの猫のぬいぐるみ『スプーン』を抱えて、天井を見上げているのは、遠野まほろ。
　後ろ髪の一房だけが馬のしっぽのように長い小犬丸信乃が、天井にいる子猫珠たちになんとか手が届かないものかと飛び跳ねれば、彼の一房長い髪が跳ねるのを、愛おし気に見守る鴉取荘助がいる。
「願いを叶える龍とな！　それは是非ともお目にかかりたいものだ。なあ荘助」
「ええ、まぁ」
　荘助にとっては龍なんかどうでもよくて、信乃さんがやる気なら、という程度のモチベーションであったが、信乃のほうはいつもながらに真っ直ぐ、やる気満々である。
　元の世界の体育館でやったら熊先生が飛んできて絶対に怒られそうだが、信乃は身軽さを活かして、天井から下がっているネットをよじ登っていった。黒ちゃんが近くにきたときを見計らって、腕を伸ばし捕まえ――ようとするも、その寸前で黒ちゃんはひゅーんと下方へ向きを変えた。
「そっちにいったぞ、荘助！」
「意外とすばしっこいんだな。でもまあ捕まえられない速度じゃ……」
　地上で待ち構えていた荘助がキャッチしようとしたが、黒ちゃんはそれもすり抜ける。
「な、なかなかやりますね」
　一方夏朝も、手の届く高さにおりてきた白ちゃんにそっと近づき虫取り網を振るうも、失敗。
「あう……、……ん！？」
　逃げた黒ちゃんと白ちゃんは、空中で邂逅すると、まるで連星のように互いに互いのまわりを回り始めた。
　ぐるぐるぐるぐる。
　速度はどんどん速くなる。
「このままだと、溶けて灰色のバターになっちゃうかも」
　なんて、まほろがけっこう真剣に心配し始めたとき。
　回り続ける白ちゃんと黒ちゃんが一体化して、陰陽図めいたツートンカラーのおおきな子猫珠に変化した。
「……可愛いが１つに！？」
　夏朝が目を丸くしていると。
　ぽとぽとぽとっ。
　小さくてふわふわしたものが陰陽ちゃんから生み出され、雨のように降ってくる。
「ん、何か生まれ……？」
　信乃が目を凝らす。
「こ、これは！！」
　子猫である。
　陰陽ちゃんが子猫をいっぱい生んでいるのだ！
　色は、白、黒、灰。
　子猫が次から次へと落ちてきて、見る間に一面子猫だらけになる。
「子猫さん……子猫さんが沢山……！」
「か、かわいい……！」
　夏朝とまほろと信乃はメロメロになった！
　だが、信乃以外にたいして興味のない荘助だけは、
「……で？」
　とスンッとした態度をとって、
「これは何か効果のあるものなのかい？」
　と陰陽ちゃんを見上げている。
　しばし見つめあっていたが、数瞬ののち、いつになく興奮した信乃の声がして。
「なんとめんこい子猫殿だ！」
　振り向く。
「信乃さんどうかしましたか！？　……って、うおおおお信乃さんが子猫と戯れてる！！！！」
　荘助さん、子猫はどうでもよかったが、愛らしい信乃さんの姿には鼻血を吹きそうなほど大興奮である。

　――はい、これで全員陥落。