摩訶不思議、寝子高龍！｜リアクション

摩訶不思議、寝子高龍！

●隠れる！　緑の子猫珠

　自転車置き場から東門を抜けると、南へ延びる並木道がある。春先はピンク色の花弁をつける桜の樹たちは、すっかり花を落し、濃い緑色の葉を広げている。このあたりにいると思われる緑の子猫珠の姿は確認できない。
　音海なぎさは坂内梨香を伴ってこの場所にいた。
「坂内くん、緑の子猫珠、どこにいるかわかるかい？」
「視てみるわ」
　梨香は、目の形をしたペンダントを翳し、ペンダントに嵌った琥珀ごしに風景を視る。これが梨香のろっこん＜魔法使いの目＞である。視た対象に神魂の影響があると、揺らいで見えるのだ。
「あそこ」
　梨香は一本の桜の樹の上の方を指さした。風に自然に揺れる、緑の葉の重なりがある。なぎさの目には、他と変わっているようには見えなかったが、＜魔法使いの目＞で視ると揺らいで見えるというのである。
「木の葉に紛れるなら、この珠は植物の属性なんだろうか」と、なぎさは思ったことを口にする。
「水が好きだったりしないかな？　うまく噴水に誘導したら、おとなしくなってくれたりしないかな」
「植物の属性かどうかはわからないけれど、噴水に誘導するという作戦は悪くないかもしれない」
「あれ、でもそうすると水色の珠も相手しないといけないかな？」
「そういうことは、うまくいったら考えましょ。今問題にすべきは、どうやって木の上の子猫珠を噴水の方に誘導するか、よ」

　するとそこに。
　――ななーん！
　楽しそうな声がして、黄色の子猫珠が飛んできた。
　それを追いかけて、樹と竜世とスターライトナイトと美咲紀も走ってくる。
「にゃんこはええな！」
　竜世は肩で息をしていた。スターライトナイトにも置いていかれてしまっていた。だが、ふいに振り返ったスターライトナイトは、次の瞬間、竜世のことを抱きかかえていた。
『遅いぜマスター。しっかり捕まってろよ』
「ははっ、楽しい！」
　竜世とスターライトナイトの速度があがる。黄色の子猫珠は楽しくなってまた逃げる。
「あっ」
　なぎさが息をのんだ瞬間、黄色ちゃんは、緑ちゃんがいる樹につっこんだ。
　――ななーん！
　――わぷーっ！
　黄色ちゃんに激突されて、落ちた木の葉と一緒に、緑ちゃんが飛び出してくる。
　緑ちゃんは慌てたように校舎のほうへ向かって飛んで行ったが、黄色ちゃんは目を回して、地面にぽとりと落っこちてきた。美咲紀の足元のほうに転がってきた黄色ちゃんは、ふるふると首（？）を振っている。
　美咲紀は慌てず、猫じゃらしを振った。
「子猫珠ちゃん、可愛いですねぇ。キュートですねぇ。一緒に遊びましょー」
　ふりふりふり。「一緒に遊ぼう」な雰囲気を醸し出す美咲紀。
（褒められて悪い気がしないのは、人も猫も同じ。子猫珠だってきっとそう！）
　それになにより、美咲紀は子猫珠と仲良くなりたかったのだ。
　その気持ちが伝わったのか、黄色ちゃんは美咲紀が振る猫じゃらしに目を奪われている。
　手はないが、しっぽを手みたいに使って、猫じゃらしにじゃれつくように一振り、二振り。
　後ろからそおっと樹が近づく。
　次の瞬間。
「捕まえたっ！」
　樹がザルを振り下ろし、その中に黄色ちゃんをすっぽりと入れた。
「やったわ！」
　喜ぶ樹に一つうなずき、美咲紀はそっとザルをあげて、黄色ちゃんをまふっと抱きしめる。
「いっしょに行きましょ、子猫珠ちゃん。寝子高龍さんに会いに！」

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