摩訶不思議、寝子高龍！｜リアクション

摩訶不思議、寝子高龍！

●熱戦！　天下一番武道会

　グラウンドの武舞台は大盛り上がりになっていた。
　試合はまだ、第四試合。尾鎌蛇那伊ＶＳ新田亮の戦いが続いている。
　このふたり、どちらも引かぬ戦いぶりで、片や打撃を入れれば片やそれを避け、片や素早い蹴りの連打を入れれば、それに合わせて腕で弾いてくるという一進一退が続いている。
　亮は途中から＜鬼人の体（サード・フォース）＞を発動させて、動体視力をあげていったが、あちらの攻撃を見破れても、蛇那伊の『後の先』戦術でこちらの動きも見破られてしまう。
「ちっ、埒が明かないな」
　亮はさすがに疲れてきた。息切れしないよう、ろっこんの進化能力を断続的に使うよう心掛けてきたが、まさか初戦からこんなに試合が長引くとは思ってもみなかった。
　汗をぬぐう。蛇那伊はまだ涼しい顔で、体の力の抜けた自然な立ち方をしている。
「化け物か……」
「人聞き悪いわね。あなたが私より動いただけよ」
　たしかに、ずっと攻め続けていたのは亮だった。蛇那伊はそれに合わせて最小限に避け、時折、技を返してきただけ。思い返してみれば、走った量も、拳を放った数も、攻めた亮のほうが圧倒的に多い。
（体力的に、これが最後の発動か）
　息を止める。頭の中で「発動」と言う。さらに「倍化」ということで、＜鬼人の体（サード・フォース）＞の進化能力が発動する。
　亮は石の床を蹴った。
　右ストレート。だがこれはフェイント。
　蛇那伊はそれに対応してくる。
　しかも右ストレートと見せかけて一本背負いにもっていこうとしたのも見破られ、手を払われる。
（問題ない、ここまで狙い通り）
　亮が本当に狙っていたのは、二段フェイントからのテコンドーの連続蹴りだ。
「オラララララララ！！！」
「甘いわっ！」
　蛇那伊はその脚を掴んできた。
「疲れが見えたわよ。悪く思わないでね」
　片足を掴んだまま軸を回転させ、ジャイアントスイングの要領で投げる。
　亮はきれいに場外へ投げ飛ばされた。

　――第四試合、勝者！　尾鎌蛇那伊にゃー！

◇

　長い第四試合を終え、すこしの休息をはさんで、準決勝が始まった。
　準決勝の第一試合は、春賀幽と戦士ホウレンソウの戦いだ。
　今度は幽は、試合開始早々から全身の肌を堅く厚い青色の鱗で覆う＜青龍之舞・龍鱗陣＞を使ってきた。
「葉っぱで打撃ですか。龍鱗陣を使えば、痛みは全くないですね」
　打撃は効果がないと悟ったホウレンソウは、今度は葉で切りつけるようにしてきたが、これも幽に逆手に取られ、葉を毟りとられる。
「この葉っぱ、薄刃の様に使えるかな？」
　刃のように切りつけてみれば、ホウレンソウの顔色が変わった。
「俺の！　俺の葉を！　毟るだと！　許せん！」
　超野菜人に覚醒し、幽の体に緑の葉を巻き付けて、締め上げてくる。
「べつに痛くも苦しくもないですが……せっかくなので」
　幽はむやみに抵抗せず、逆にゼロ距離まで間合いを詰めての龍鱗強化状態頭突きを狙う。
　だがそれは、ホウレンソウの柔らかい葉に阻まれた。
「この星にはこんなことわざがあるんだってなぁ。『柔よく剛を制す』――まさに俺のことだ！！」
　ホウレンソウは葉っぱで動きを封じた幽を、そのまま場外にもっていった。

　――準決勝第一試合、勝者！　戦士ホウレンソウだにゃー！

◇

　そして、準決勝第二試合。
　蛇那伊の対戦相手となるはずのセグロ・メタッルムは試合開始直後にあっけらかんと「リタイア」を宣言。
　「飽きた。あとは好きにしろよ」と言い捨て、武舞台を降りると、フォルティスのもとに戻る。

　――にゃにゃにゃ！？　ということは、準決勝第二試合の勝者は、尾鎌蛇那伊にゃー！

「あら、悪いわね。楽させてもらって」
　蛇那伊の心はすでに決勝、戦士ホウレンソウとの一戦に向かっていた。