摩訶不思議、寝子高龍！｜リアクション

摩訶不思議、寝子高龍！

●誰の手に！　赤の子猫珠

　いよいよ決勝。戦士ホウレンソウＶＳ尾鎌蛇那伊の世紀の一戦である。
　グラウンドの武舞台を取り囲むように、負けた参加者や他の子猫珠を捜し終えた人々が集まっていた。
　左手からホウレンソウが、右手から蛇那伊が登場すると、会場は大いに沸いた。
「あら、ずいぶん葉っぱが傷んでるじゃない」
　蛇那伊はホウレンソウを挑発する。ここまでのフォルティスと幽との戦いで、ホウレンソウの葉は何枚かに穴が開き、何枚かは毟られて、無残な有様となっていた。
　芯に近い部分の葉が幾枚か残るばかりという姿になったホウレンソウは、試合開始直後から金色の光を纏い、超野菜人化してトバしてきた。
　のっけからの激しい打ち合いに、蛇那伊も対抗心が湧いてくる。
「いっちょ、暴れてあげましょう！」
　研ぎ澄ませた五感は健在。相手の動きを先読みし、敵の葉の軌道を読んで仕掛ける。だが、相手もそう甘くはない。蛇那伊の動きを読んで、別の葉が行く手を阻んでくる。
　掴み、抑え、引きちぎる。
　ホウレンソウも蛇那伊の横っ面を張り倒し、掬い上げ、その巨体を巻き取ろうとする。
　超野菜人のパワーを以って押し気味に先頭を進めていたホウレンソウであったが、葉の枚数が減るにつれ、その勢いが衰えてきた。内側の葉は如何せん若い。強度が弱く、リーチも短い。
　今だ、という機を捕らえ、蛇那伊はとうとう、後の先の戦術を変えた。

「野菜人が超野菜人になるなら、こっちはウォークライよ」

　ＷＯＯＯＯＯＯＯＯＯＯＯＯＯＯＯＯＯＯＯＯＯＯＯＯ雄雄雄雄雄雄雄雄！！！！

　身体の奥底から雄叫びをあげる！
　更なる高揚感が蛇那伊を包み込む。
　蛇那伊はもちろん、超野菜人化するわけではない。
　理性的に考えれば、雄たけびは自分に軽い暗示を掛けただけにすぎない。しかし。
（人間、暗示――思い込み――が強ければ普段以上の力を引き出せるものよ）
　蛇那伊はそう信じている。いや、知っていると言い換えた方がより正確だ。
（ただし、多用は厳禁。引き上げた身体能力に身体の耐久力が追いつかない可能性があるもの。すなわち、互いにこの一撃が、勝負！）
　ホウレンソウも、この一発が勝敗を決めると分かったようだ。
　同時に石床を蹴る。空中に高く跳びあがる。
　互いの拳と葉とが交差する！

「勝敗は！？」
　武舞台のそばで固唾をのんで見守っていた亮が見たもの、それは――。

　二度転がって受け身を取り立ちあがった蛇那伊と、萎れたように倒れるホウレンソウの姿だった……！

　――にゃああああああ！！　勝者！　尾鎌蛇那伊にゃー！

　赤の子猫珠も大興奮で叫び、その勢いのままばふっと蛇那伊の腕の中に飛び込んだ。

　――優勝おめでとうにゃ！　強いアンタについていくにゃ！

「ありがとう。行先は決まってる。屋上よ」
　蛇那伊は優勝カップを掲げるかのように高々と赤の子猫珠を掲げ、その場に集まっていた皆に呼び掛ける。
「――さあ、みんな、行って寝子高龍を呼び覚ますわよ！」

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