摩訶不思議、寝子高龍！｜リアクション

摩訶不思議、寝子高龍！

●第二試合、戦士ホウレンソウ　ＶＳ　フォルティス・ウルペース

　ほしびとのフォルティス・ウルペースは、星幽塔の住人としても変わった経歴の持ち主だった。
　亜麻色の長い髪に褐色の肌。髪と同じ色合いの大きな耳と尻尾をもち、ボーイフレンドシャツに、ホットパンツ、膝まであるブーツ姿の美しい女性であるが、もともとは、１３人兄弟の末っ子『王子』であった。三年ほど前に、魔女の求愛を断ったせいで今のような女の子にされたのである。だから、心は少年のまま。１年目は何とかなるかと気軽に構えていた。次の年は焦り始めた。腰はくびれ、身体はどんどんセクシーに成長する。胸もそれなりに大きくなってきている。未だもとに戻れる気配はない。
　そんなフォルティスは、セグロ・メタッルムという魔神（ジン）の青年と契約し、使役していた。
「どこだここ」
「セグロ、またお前の仕業だろ」
「ちげえよ俺様ならもっと派手な場所に飛ばすね。ジンを扱いきれてねえアンタに問題があるんじゃねえか？」
「……違うのか！？　まあ細かいことはどうでもいいや。猫を集めれば願いを叶えてくれるなんてお前より優秀で太っ腹なジンじゃないか。絶対男に戻してもらうぞ！」
　そんなわけで、張り切ってトーナメントに参加した次第である。
　フォルティスは演劇部から模造刀を借り受け、ぴゅっと剣を振って感触を確かめた。
「随分切れ味の悪い剣だけど、打ち付けるくらいはできそうだ。相手はお前か」
「そうだぜぇぐへへへ」
　下卑た声の戦士ホウレンソウは、まさに野菜のほうれん草を巨大化したような姿で、緑の葉を手足のように使って攻撃してくる。フォルティスは模造刀で緑色の葉を打ち払った。
「悪いけど、今日の俺は本気だぞ！」
　足取りは、猫のようにしなやか。
　ホウレンソウは、フォルティスを叩きのめそうと、幾枚もの葉を交互に繰り出し、蝿叩きの如くバシバシと上から打ち付ける。
「ふーん中々やるじゃんか」
　フォルティスは葉の一枚を下から弾き返す。その勢いで葉が裂け、ホウレンソウは苦しそうな声をあげた。
「くそ、ちょこまかと……こうなったら！　ウオオオオオォォォォ！！」
　ホウレンソウは、金色の光を放ち、超野菜人に覚醒した。
「金色になったからってなんだよ……ってうわぁ！」
　フォルティスは、自身のブーツのヒールで足を挫きかけてよろめいた。手の中から、振り上げた模造刀がすっぽ抜ける。このチャンスを見逃すホウレンソウではない。ホウレンソウは、葉を広げ、フォルティスの体をぐるぐる巻きにして持ち上げる。
「ひっ……ぐ、ぅうっ。くそっ……！　離せっ！」
　フォルティスは喘ぎ声をあげて、全力で暴れた。それでなんとか葉の拘束からは逃れることはできたが、肩で息をして苦しげである。
「ああ、もう！　慣れない履物はむしろ邪魔だ！」
　フォルティスはブーツを脱ぎ捨て裸足になると、トンっと床を蹴ってひと跳ねした。
「うん、脚が軽い」
　反撃だ、と剥き出しの脚で回し蹴り。立て続けに足技を食らわせる。
　だが。
　それらの足技は、ホウレンソウは葉の表を柔らかく使って、それらの衝撃を見事に吸収した。
「そんなものか」
「え、うわあっ！」
　フォルティスの褐色の脚がホウレンソウに捕らえられる。そのまま逆さ吊りに高く持ち上げられると、ざっくりと着ていたボーイフレンドシャツの裾が捲れて、おへそが露わになった。
「あっ」
　フォルティスは思わず胸を押さえる。このままだと胸も見えそうだったからだ。次の瞬間。
「終わりだな、女！」
　ホウレンソウの声がして、フォルティスの体は場外に投げ飛ばされていた。

　――だ、第二試合、勝者！　戦士ホウレンソウだにゃー！