並走せよ！　暁の神速ランナー｜リアクション

並走せよ！　暁の神速ランナー

　晴海飛鳥は神速ランナーが走ると同じ寝子島街道をひたすらに走っていた。スタート地点の西端から、何度追い抜かれても、すり抜けられても、たとえ他の生者ランナーのおかげで、多数の分身が表れて大変なことになっていても。都市伝説に体当たりで挑むと決めた彼女である。見た目以上のタフさを発揮してついに街道の中ほどまでやって来た彼女だが、予想外の物体――極楽寺かむり特製HATTORIばりの一大アトラクションスペース――を目の前にして、思わずペースを落としてしまう。
「なんだろこれ？」
その間に神速ランナーズのうちの一人が飛鳥をまた追い越し、アトラクションをすり抜けて走り去っていった。きょとんとする飛鳥に、かむりに振られた冴木竜司が駆け寄ってくる。飛鳥は同学年の竜司に見覚えがあった。
「やあ、確か君、二年の」
「女子と見込んで君に頼みがある！　先輩を成仏させるために……」
飛鳥が言い終えるより、竜司のアクションの方が早かった。
「おんぶさせてくれええええっ！」
「わ、わっ!?　なんだい!?　これじゃ走れないよ！」
あっというまに竜司は小柄な飛鳥を担ぎ上げ、負ぶってしまう。なんとか逃れようとした飛鳥は竜司の体をよじ登り、結果肩車ができあがってしまった。
「これは……おおおっ！」
（小柄でかわいい女子の胸の感触でもゲットできればと思ったが……暖かい太ももってのも、いい！）
見よ！　竜司の内に宿りしらっかみの力の片鱗は、エロと言う触媒を得て覚醒する。竜司は身の内に力がみなぎり、雄たけびを上げるごとに自分の身体能力が高まっていくのをはっきりと感じていた。
「うおおおおおおおお！　今なら！　先輩に並べるッ！」
「ちょっと待って、下ろしてってほしいなっ……あわわわぁ！」
飛鳥を肩車したまま、強化された筋力は絶妙なバランスを保ち続けて竜司は爆走する。空気の壁に圧迫される飛鳥の叫びが尾を引いて流れて行った。
「ああっ！　あの変態さんも結局、よけてっちゃいましたか……チィっ！」
残されたかむりは悔しそうな声を漏らすのだった。じっと見ている人々に気づいて、慌てていつもの表情を取り繕い、かわいらしく笑って見せた。

　さて、アトラクションで立ち往生したもう一人……樋野秀吉＝憑依した神速ランナーは、いつものようにすり抜けることができないと知るや、律儀にもかむりがこしらえたアトラクションに挑み始めた。のろのろとよじ登る最中にも、ランナーの数だけ分身した、他の神速ランナーたちが次々とアトラクションを通り抜けていく。かなりシュールな光景だ。もたもたしているうちに、ろっこん『憑かれてみた』も解けてしまう。
「はっ!?　なんで俺、こんなことに!?」
秀吉には憑依されている時の記憶はない。しかし、神速ランナーの分身の一人が抜ける前に、彼の口を使って一言だけ、いつもとは違う言葉を発したのだった。
『もっと早く、走らなければ……』
「いひひ！　やっと引っかかってくれる人が現れました！　何かしらあのおもしろい格好！」
残念ながらほかの生者たちはこのあからさまな巨大アトラクションにはあまり引っかかってくれないようである。それだけに、秀吉の様子は実にかむりを喜ばせたようであった。