仁義なき焼肉バトル｜リアクション

仁義なき焼肉バトル

　焼肉（と、あと一応寝子島の運命）をかける戦いは、さらに激しさを増していく。
「取っ……たぁ！」
　熾烈を極める争奪戦の末、とうとう肉を手にすることに成功した賢二。
　久方ぶりの牛肉は、カルビ一枚であってもまるで宝石のように輝いて見えた。
　小皿にたっぷりと出しておいたタレにつけようとしたその時、
「隙ありーッ！」
　陽毬の手が、残像が生じたかと錯覚するほどの速度で伸びた。させじとばかりに、小皿を持つ手を引く賢二。
　しかし、彼は見た。見てしまった。
　肉を食べるうことを阻む者、その一切を許さないという食い意地……じゃなかった、決意とか空腹感とか色んなものがないまぜになった陽毬の纏う、正しく「食い気」というより他ない圧倒的なオーラを。
　女の子の笑顔より食い気、を是とする今日の賢二すら圧倒されるほどの負の食い気。
　そうして動きが鈍ったその瞬間を逃すことなく、陽毬の手がバネの如く伸びた。小皿ごと、そこに乗ったカルビを奪い取る。
　そしてそのまま、カルビは陽毬の口の中へ入るかに思われた。
　ヤッキーと亮の戦いの余波だろうか、コップが飛んでくるまでは。
　コップが縁の部分にぶち当たり、シーソーの容量で小皿が跳ねる。
　えっ、と陽毬が声を漏らすのを嘲笑うように、勢い良く宙へと舞い、陽毬のもとを離れていく肉。
「私のお肉ー！」
「俺の肉だーッ！」　
　箸を伸ばす陽毬と賢二。
　そこへ飛来するのは、メニューの冊子！
「そのお肉はもらうよ！」
　冊子の陰から、ルイビがランナーのラストスパートもかくやという爆発的な速度で箸を伸ばす！
　そこへ飛ぶのは、千歳の「正義一直線」。
　自分たちが取れなくとも、とにかくルイビたちにだけは渡してはならない。「あいつら」以外の側で奪い合いをするのも、付け入る隙が出来てしまうし、できればやめてほしいところではあるけれど――ともかく。
　箸から放たれた衝撃波を、電撃的な焼肉機動で身をかわすルイビ。
　空を切った衝撃波は、しかし自らその軌道上へ飛び込んだ賢二に直撃した。
　次の瞬間、「 It's just a joke!」が発動！
　ぼふん、とあたりに煙が立ち込めた。咳き込んだり、視界を塞ぐ煙を振り払おうとする陽毬、ルイビ、そしてその場の全員。
　その絶対的な隙を突き、一瞬にしてアフロ姿に変わり果てた賢二は肉を掴み取る！
　幸いというべきだろう、タレは奪われた時に既についている。すなわち、再び隙を晒す「タレにつける」という行為は不要！
　そのまま口へ運び、歓喜にアフロを震わせるのだった。