仁義なき焼肉バトル｜リアクション

仁義なき焼肉バトル

じわじわと溢れ出る肉汁。ぽたり、ぽたりと落ちる脂が、赤熱する炭に触れた途端にじゅわっと音を立てて弾けた。香ばしい香りのみならず、音が、視覚が、全てが食欲を刺激する。
　今か今か、と刀は神経を研ぎ澄ます。
　と、その時。すーっと、副菜のナムルの小皿が三人の方へとよこされた。いや、三人だけではなく、色んな人のもとへ副菜がよこされているようで。
　ん？　とつい気を取られたのはほんの一瞬。
　しかしそれは、肉が焼きあがるのとほぼ同じ一瞬。
　しまった、と気づいた時には、既に出遅れている。

（この隙に、牛カルビは俺が頂く！）
　三谷賢二は、迷いなく肉へと箸を伸ばした。
　副菜の小皿をばらまいたのは、この布石。タイミングが合うかは賭けだったが、それもうまくいった。
　焼肉、それも牛肉！　牛肉が、ただでたらふく食えるチャンスなのだ！　この機会を逃すわけにはいかない。
　これが終わったら、次に牛を食える日などいつ来るかわからない、鶏肉ばかりの生活がまだやってくる。
　周りに居るのがほとんど年下だろうと、そんなことを気にしている暇などなどない。手段を選ぶ余裕など無い。
　牛だ、牛を食べるのだ……！
「あたしそのお肉欲しいな～～？」
　不意に耳に届く甘い声。視界の端に、ちらりと映るのはのんのん・のんこの天使にも見える笑顔！
　思わず、箸を伸ばす手が止まる。
「笑顔より！！！！　食い気！！！！！」
　――などということはないッ！
　猛然と直進する箸！
　賢二には笑顔が無意味と気付いたのんこが、箸を伸ばしてソレを追う！　だがテンポは既に賢二のもとにある。のんこが追いつくことはふかの、
「っとぁ!?」
　突如鼻を貫くゴマ油の香ばしさ。
　目の前に踊る、もやしにゼンマイ――すなわち、ナムル！
　のんこは、小皿を賢二に向かって投げていた。敵の出鼻をくじくために撒いた副菜が、思わぬ逆撃となって襲いかかったのだ。
　当然、これはろっこんではない。すなわち、「It's just a joke!」は発動しない。これを利用して更に周囲の虚をつくことは、できない。
　もやしを顔面に直撃させながら、しかしそれでも箸は止めない賢二。だが既に、のんこの箸との差はないも同然。
　その時、行く手を阻むように現れる、弧を描いて進む新たな箸！
　直接取るためではなく、肉を弾き飛ばすために動くソレは、修の箸だ！
（しっかり掴まずとも良い。弾いた瞬間、逆の手で掴めばいい！）
　のんこがくるりと修の方へと振り向いて、天使のような笑顔を向ける。
　しかし、修はこれに動じない。好きな人が居るのだ、安売りの笑顔などに惑わされるわけにはいかない！　のんこの策は、むしろ修の心に火を点けた。
　のんこの箸が届くよりも、わずかに早く。　
　修の箸が、肉を弾く！
　すかさず逆の手を伸ばす修。もやしを払い除けた賢二、そしてのんこが後を追う。
　さらに――
「悪いが少年、君とばかり遊んではいられん！　私は肉を食わねばならん！」
「なっ！」
　亮のジャブをかわしたヤッキーが、壁を蹴り、天井を蹴り、肉めがけて宙を踊る。
　四人の手が、肉を求めて宙を舞う。
　最高点に達し、やがて落下しはじめる肉がスローにすら見える最中。
　風圧すら感じさせる速度で、割って入る箸が一膳。ちょっぱやランナーみたいな名前のやつこと、ルイビの箸だ。
　後より出てなお他に追いつく圧倒的な速度の箸は、さらに速度を伸ば――
「！」
　瞬間、肉が加速した。あらぬ方向へと、肉汁とか香ばしい香りとか色々撒き散らしながら飛んでいく牛カルビ！

（刀、今だよ！）
　「アクセラレイトライン」で肉を加速させた海の目配せ。
　さりとて、狙いに気付いたヤッキーが机に着地、と同時に手近ならぬ足近な小皿（タレたっぷり）を蹴り上げようと、
「させない！」
　千歳が正義の心を込め、棒状の物――すなわち、箸を振り抜く。「正義一直線」が発動し、放たれた衝撃波がヤッキーを吹き飛ばした。
　すかさず、亮がその身体に手をかけて引き倒す。そのまま、関節技の体勢に！
　そして。
　刀が、頭の中で撃鉄を落とす。
（世界よ凍てつけ――この箸が届くまで！）
　精神が「加速」し、刀の目に映る世界、その一切が凍りついたように動きを止める。
　その凍てた世界を加速した箸が駆け抜け、宙を舞う肉を過たず掴み取る！
「……うん、美味い」
　勝ち取った肉は、野菜が欲しくなる味だった。

　寝子島の運命が決するまで、あと98枚――！

このページにイラストを設定する

仁義なき焼肉バトル

シナリオ

シナリオデータ

シナリオスケジュール

参加キャラクター一覧