仁義なき焼肉バトル｜リアクション

仁義なき焼肉バトル

　そして、また幾度かの攻防があり。
　ついに迎える、最後の一枚。この一枚の行方如何では、寝子島が焼肉島に変わってしまう。好き勝手に肉を求めていた面々も、今更のように琴の重大さを思い出したり思い出さなかったりしつつ、その時を今か今かと待ち続ける。
　――今だ！
　全員が共有する、最後の完璧な一瞬。
　真っ先に動いたのは、修だった。　最後の最後までとっておいた隠し玉を、懐から取り出し――あたりかまわずに撒き散らす！
　店内に散らばる、巨乳、美乳、微乳――よりどりみどりの肌色面積多めの美少女、美女、熟女！
　女性にもおっぱいにも興味のない者ですら、何事かと一瞬目を疑ってしまうこれこそ、修のとっておきの目くらまし、「美少女美女熟女全員集合」！　ところで何でこんなもの持ってたんですかね！
　亮と相対しつつも、最後の肉を逃すまいと構えていたヤッキーの視線が、肉とトレカの間で彷徨う。そしてそのわずかな、しかし重大な隙は、亮が拳を叩き込むには充分過ぎるほどのものだった。
　鼻血と歯のかけらをこぼしながら吹っ飛んでいくヤッキー。今は見向きもされないサラダバーに突っ込んだその身体は、派手な音とともにサラダまみれになって動かなくなった。
　これでまず、一人。

　さて、最後の肉に真っ先に箸を伸ばしたのは、降参したはずの五朗八だった。
　こっそり修から目くらましの話を聞かされていたおかげで、トレカの雨にも動きは一切鈍らない。
　そのまま肉を取れれば良し、例え取れなかったとしても――。
　そこへ追いすがるのは、またしてもルイビ！　ちょっぱやどころではない猛スピードで迫りくる箸を、
（タイミングさえわかっていれば！）
　五朗八は恐れることなくかい潜り、ルイビの箸が加速する瞬間すらも見切って箸を届かせる。しかし、掴んでいる余裕はない。だから躊躇なく、肉を弾いた！
　ルイビとは真逆の方向へ、彼の速さをもってしてもすぐには追いつけないように！
　しかしルイビもただでは諦めない。ならば、と手元の小皿を投げつける。身をかわす隙を突こうというのだろうが、それは既に読めている！
　修の振り上げた学生鞄が、小皿を受け止めた。
　タレが思いっきり鞄にぶちまけられるが、それはこの際気にしてられない。どうせここは本来の世界とは違うのだから。
　そのまま鞄を振り抜いて、小皿を打ち返す！
　なっ、と声を上げる間もなく、ルイビは顔面を直撃した小皿にノックアウト。
　そして宙を舞う肉は、弾き飛ばした五朗八自身が見事回収――
「お願ーい、そのお肉ちょうだーーーーーい！」
　飛びつく、否、むしろ押し倒すと言うべきだろう。いっそ貼り付いたようにすら見える満面の笑みとともに突進してくる、のんのん・のんこ。もはや笑顔による洗脳もクソもないが、物理的なぶちかましは五朗八には有効で。
　咄嗟には対応しきれず、肉を取りこぼす。
　すかさず箸を伸ばすのんこ。その先端が最後の肉へと触れようとした――その刹那。
　横面から、一膳の箸が飛び込む。
　そのまま肉をかっさらったソレは、遠海の箸だった。
　タイミングを伺い続けた末に手にした、念願の肉にさっとタレをつけ――そのまま口へ！
「ああもう、最高……！」
　思わずこぼした遠海の表情は、それはそれは幸せそうに蕩けていた。
　口の中で肉汁がカルビのたれと混然一体になって混ざり合い、それが肉の柔らかさや香りとマッチし……最高というより、他になかった。

　――かくして。
　仁義なき焼肉バトルは、焼肉戦士たちの勝利で幕を閉じたのであった。

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