仁義なき焼肉バトル｜リアクション

仁義なき焼肉バトル

新田亮は、ハンマーグローブを纏った拳をギリリと握りしめた。
（焼肉対決で島の命運をかけるなんて、冗談じゃない）
　じゃあ他の対決ならいいのか、というわけじゃあないが。いくらなんでも、焼肉対決で島の未来を奪われるのは、笑えないにもほどがある。
　今まさに目の前で焼かれている、一枚目の肉を見やる。脂がしたたり落ちるたびにじゅうじゅうと音を立て、香ばしさを引き連れた煙が天へと登っていく。こんがりとした焼き色は、たった一枚で目を釘付けにするのに充分なくらい魅惑的だ。
　よだれが溢れそうになるが、今は気にしている場合じゃあない。
　寝子島の命運のため、この肉は「あいつら」ではない誰かに託そう。
「肉は任せた」
　告げると同時に、机の端を蹴って大きく跳躍。目指すは「あいつら」の一人、ヤッキー・チェン！
　ヤッキーが飛び退り、着地した亮は床を蹴って一気に肉薄。すかさず数発のジャブを見舞う。
　対するヤッキーは、最小限の体捌きでこれを回避。しかも、小皿と箸は手にしたままだ。
「よっと！」
　その姿が消え、その場に小皿と箸だけが取り残される。直後、床を舐めるような低姿勢から繰り出される、足首を刈る鎌の如き一撃！
　飛び退ってこれを避ける亮の背中に、鈍い衝撃。カールとのんこ、ではなく机にぶつけてしまっただけのようだ。現に、二人の意識は肉のみに集中している。
　これでサシで戦える、などと安心する暇はなく。
　小皿と箸をキャッチしたヤッキーが、そのまま小皿を手裏剣めいて投げ放つ。高速回転する小皿から、四方八方へと飛び散るのは焼肉のタレ！
　顔へと飛来したタレを右手で受け止め、左手で掴むのは置きっぱなしのコップ。狙いはつけず、そのままぶん投げる！　
　ぶちまけられる水をひっかぶっるヤッキー。だが見よ！　ヤッキーはコップを箸で受け止め、そのまま旋転。勢いを乗せ、投げ返したではないか！
　驚愕の声を上げる間もなく、亮のアゴをコップが直撃した。

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