【Toys Labyrinth（３）】

「こいつぁカプギア使いにとって、やりがいのある関門ッスよ！」
　カプセルギアの操縦にもすっかり慣れて、ベテランギアマスターの道を着々と歩む、古尾 桐子の挑戦です。
「今日は相棒を持ってきてないッスから、ぐらぐらのガチャで当たった二体が頼りッスねー」
　取り出したのはネコテック製の可愛らしいカプセルギアと、ナインナイツカンパニーのカッコイイ系のギア。どちらも遠距離攻撃タイプです。
　とはいえ、この部屋はバトルではなくむしろダンジョン攻略のような謎解きがメインのようでして、気合を入れた桐子はちょっぴり意気込み損だったりしました。
「まーでも、これも新鮮だし。いい経験ってやつッスね！」
　モニターを見ながら二体のカプギアを同時操縦、だなんていつものギアバトルではありえない状況は確かに、これはこれで楽しいものです。
「ここは二手に分かれて行くんッスね？　えーっと、こっちのギアでこのクランクを回すと、向こうの扉が開くと。そんじゃ、今度はこっちのスイッチを押して、向こうの橋を下ろして……」
　地下牢のような入り組んだ区画のなか、二体のギアはそれぞれの道を進み、立ちはだかる障害を取り除いていきます。
「むむむ、二体同時はなかなか難しいッスねえ……でも楽しいかもッス！」
　バトルではないからこその、いつもとは違ったこのシチュエーションに、桐子はカプギアの新しい魅力を発見した気分です。
　思い切りハマって、すいすいと迷宮を攻略していくと、
「おっ？　ここが出口ッスね！　飛び込むッス！」
　重厚な金属製（に見える）扉を開くと、目の前にはなにやら、やけにだだっぴろい空間が広がっています。
「ここが最深部ッスか……あ！」
　ちゅどんっ！　派手な爆炎がオモチャの壁に弾けて、モニターの映像が揺れました。
　どうやらバトル中？　なのか、攻撃を放ったのは、弥生の操るアーミーでした。
「ぐぬぬぬ。ゼンゼン当たらへんやーん！」
「おおっ、なんッスかあのギアはー！？」
　上空、弧を描いて、どぎゅん！　すごい勢いで飛ぶ、一体のカプセルギアがありました。
　四肢と翼を持ち、空を駆ける勇ましい四足獣。肩部から展開するバリアフィールドは、アーミーの繰り出す光線銃を逸らしていなし、有効打を与えることができません。
「くくく……よくぞ来た、新たなるギアマスターよ！」
　なーんてね、と小さく聞こえたような気もしつつ。ともかく声は『Toys Labyrinth』の仕掛け人、八重崎 五郎八！
　最深部に待ち受けていた番人は、五郎八のパートナー、グリフォンを思わせる四足獣型カプセルギア『グリフィージス』でありました！



　迷宮のギミックを突破し、最深部へ到達した露草の往夜郎と往助。
「あれが番人デースか。逃げる番人に一撃加えれば合格、デーシタね」
　ルールは単純、けれどこの部屋の主だけあって、そうカンタンにはいきません。
　グリフィージスは速度重視のスピードタイプ。とらえるのにはひと苦労な上、左右のアームからはバリアを展開して、生半可な攻撃は弾いてしまうのです。
「おー、みんなここにたどりついたんッスねー」
　二体のギアに頭上のグリフィージスを攻撃させつつ、桐子はにかっ！　あけっぴろげに笑います。
「ねえ。みんなでいっせいに撃てばいいじゃん？」
「かんなちゃん、ナイスアイディアだぜ！」
　もっともなご意見に、龍樹も大きくうなずきます。
「さあ、『Toys Labyrinth』もいよいよクライマックス！　見事番人に力を示すことができれば、次の部屋への扉が開かれるよ。みんながんばってね！」
「「「おーっ！」」」
　ノリノリなロベルトの快活な声にもすっかり乗せられて、即席チームは力を合わせて番人を追い詰めます。
「往夜郎さんは右腕、往助さんは左のどんぐりで……やってしまって下サーイ！」
　黒い人狼、往夜郎が大ジャンプで爪を振るい、避けたグリフィージスへ往助がどんぐり弾を発射！
　バリアで弾きつつ旋回したグリフィージス。
「いてまえ、アーミー！　光線発射やー！」
　そこへ弥生のアーミーがびびびっと光線銃で追撃！　もうひとつの愛機ファイブはノーマルパーツながら、高度を下げたところへパンチを繰り出します。
　どどどどど！　二体のギアで集中砲火を浴びせるのは、桐子！
「相手は攻撃してこないッスからね、みんな落ち着いていくッスよ！」
　活発な性格でありながらも落ち着いて冷静に、確実にグリフィージスの退路を断っていきます。
　その頃、五郎八はスタッフ用の空間にて、
「ちょっちょっと、全員でいっぺんに相手するだなんて聞いてないわよー！？」
「あはは、まあ成り行きだから仕方ないよね。八重崎も番人の威厳を見せつけないとね、がんばって！」
　あくまで中立なスタッフ、ロベルトの声を聞きながらも必死に操縦して、雨あられと降りそそぐ攻撃をどうにか避けています。
　とはいえ……やがて決着の時はやってきます。
「……ああっ、ミスったー！？」
「やっちゃえ、白石……！」
「おうっ！」
　露草、桐子、弥生の攻撃を辛くもくぐり抜けたグリフィージスへ、不意を突いたかんなのレッドトレインが一撃！　トレインレッグでジャンプキック……のつもりがボディプレスになってしまいましたけれど、ともかくバリアを弾き飛ばしたところへ、
「くらえッ、ドラゴンナックル！！」
　龍樹のムテンが渾身の拳を叩き込み、ＫＯ！
　どっかーーーん！！
「うーん、いい攻撃。合かぁく！！　じゃなかった、おほん……ふふふ。よくやった、ギアマスターたち。そなたたちの力を認め、次なる部屋への扉を開こう……！」
　五郎八の声がそんなふうに響いたとたん、かちゃりと音がして、出口の鍵が開かれました。
「やりマーシタね、みなサーン！」
「「いえーい！」」
　露草はみんなと握手。弥生と桐子はハイタッチ！
「みんなお見事！　このあとの部屋もがんばってね、お疲れさま！」
　ロベルトに見送られて、お客たちは次なるお部屋へと歩き出したのでした。



「よーし、次はメイド喫茶に行ってみようぜ！　一度行ってみたかったんだ！」
「……すけべ」
「ええー！？　なんだよー、ゲームなんだからいいじゃん！」
　なんて、明るく去っていく龍樹とかんなを見送ってから、ロベルトはほっとひと息。顔を見せた五郎八も、大きく息を吐き出します。
「八重崎もお疲れさま」
「あーしんど！　つっかれたぁー。ちょっと休憩ー」
「おっと、次のお客さんが来たみたいだよ？　どれどれ、美少年だと嬉しいんだけどな」
「も、もうひとがんばりね、グリフィージス！」
　昨今ハヤリのカプセルギアだけに、『Toys Labyrinth』にはずんずんお客がやってきて、予想外の大盛況！　五郎八とロベルトが休めるのは、もう少し後のことになりそうです。