【球技大会】とびきり熱い空の下｜リアクション

【球技大会】とびきり熱い空の下

　休憩後、第二セットが始まった。
　出だしから一方的な試合となった。黒猫組の攻撃に白猫組は易々と点を許した。
　上下左右の読みは相変わらず冴えていた。アタックの前に身体が反応する。
「ああ、ダメですわ。足に力が入らないのですわ～」
　機動力は失われ、ボールの速さに追い付けなかった。第一セットの終盤で兆候は表れていた。数歩を歩いたところで早々と諦めた。
「あたしは諦めないわ！」
　三宅ゆりはサイドテールを振り乱してボールを拾う。
「僕だって諦めないよ！」
　小さな身体で大きく叫ぶ。恵御納夏朝は砂塗れになって走り回る。アタッカーの雨崎楓香にボールを繋げようとした。
　それを許さない苛烈な攻撃が続く。
　第二セット、黒猫組が大差を付けて勝利を掴み取った。
　運命の第三セット。左右が息を吹き返した。一セット分の休みが足に活力を与えたのだ。
「力が戻ってきたのですわー！　まだまだこれからですわー！」
「しろにゃん、ふぁい、おー！」
　猫の手を模した夏朝が飛び跳ねる。
　熱意は楓香にも伝わった。強い視線を敵陣に向ける。
「アタックだけじゃない！　ブロックだって出来るんだからねっ！」
「楽しみにしてるぜ！」
　ネット越しに鎌八まもるが笑みを作る。固めた拳を掌に打ち付けた。
　審判の羽生碧南の指示で試合が始まった。
　黒猫組の猛攻が続く。伊勢エリカが強烈なアタックを決めた。幾つかは楓香がブロックで押し込んだが簡単には点に繋がらない。まもるのレシーブが冴え渡った。
「私もいるわ」
　ロザリー・マルリアーヴは品の良い笑みで何度もトスを上げる。エリカに回すことが多かった。気紛れなのか。時に神野美野梨に声を掛ける。
「お願いね」
「わかりました」
　ノーマークの美野梨はあっさりと得点を入れた。
　白猫組も負けてはいない。楓香が奮闘した。力任せのアタックではなく、タイミングをずらすことでまもるのブロックに対抗する。拾われても諦めずに前を向いた。
「あたしは負けない！」
　歯を食い縛ってエリカのアタックに備える。打ち込まれるボールに何度も触れた。威力を削ぎ落とし、後方の味方に任せる。
「盛り上がってきましたわー！」
　左右の動きが激しくなる。奇妙な踊り子となって自陣を跳び回った。無駄の多い動きに見えて、しっかりとボールを拾っていた。
　夏朝とゆりは足りないところを補ってチームに貢献した。
　試合は消耗戦へと突入した。照り付ける太陽に体力が削られる。砂地は足首を緩やかに掴み、動きを鈍くさせた。
「僕は、負けないんだ……」
　夏朝は落ちそうな頭を震えながら堪える。ゆりも同様に勝ち気な態度で臨んだ。
　左右はふらふらになりながらも手の届く範囲で踏ん張った。
　上げられたボールは楓香が敵陣へと叩き込んだ。
　チームは細い線で繋がっていた。決して切れることはなかった。鋼線の絆であった。
「そこまで！」
　目を凝らしていた碧南が鋭く叫んだ。
　エリカの打ち込んだボールはゆりの足元に転がっていた。
「ロザリー先輩、おめでとうだよー！　白猫組のみんなもよく頑張ったんだよー！」
　写真を撮りながら三ヶ島葵が大きな声を上げた。観客の割れんばかりの拍手が起こり、両チームを包み込んだ。
「オレ達の勝利だ！」
　まもるは両膝を突き、仰け反った姿で叫んだ。黒猫組の三人が笑顔で集まる。
　エリカは鼻先を掻きながら言った。
「ポニテか」
「楽しみね」
　ロザリーは上機嫌であった。
「鎌八くんの希望が叶ったわね」
　美野梨が微笑む。
　三人に囲まれたまもるは最後に、ポニテは最高だ、と満面の笑顔で付け加えた。