寝子ヶ海浜公園喧嘩奇譚｜リアクション

寝子ヶ海浜公園喧嘩奇譚

　混戦

　不良男子たちと、源三、刀、さゆる、紘之助は混戦となった。
　時折、由貴奈と凪が遠方から工具やら小銭やらを飛ばして援護射撃をするが、ここまで乱れては下手に投げると味方に当たってしまいそうである。
「ちょっと休憩しない？　なんか皆、楽しそうだし」
「そうですわね。殿方ってしょうもないんだから」
　そのしょうもない殿方筆頭は、意外にも紘之助であった。
　技の起こりを消した動きで不良たちの拳や蹴りをひょいひょいと躱す。その動きがあまりに身軽なものだから、紘之助がすごいことをやってのけているというのが分かりにくい。だから不良たちは無謀にも紘之助にかかってゆくのだ。
「こんの！　くたばれジジィ！」
　ひょいと躱し。
「あァ今のは惜しかったな兄ちゃん」
　かかかと笑いながら、掴みかかってきた不良の指を取る。ちょいと引いて、体勢が崩れたところに膝を入れる。紘之助の強さは本物だった。本気でやったらあばらの二三は行ってしまうと、力の加減をしてなお、不良がくの字に体を折って転げるほどのダメージを与える。
　先ほどさゆるを脅した不良が、別の仲間が投げたナイフを受け取った。
「さっきは油断したが、次はねェぜ！」
「おお、中々いいセンスしてんなァ兄ちゃん」
　紘之助もまた、襟に仕込んだ鎖分銅を取り出す。心から、嬉しそうである。
　振り回すと、ビュンビュンと音が鳴った。
　不良は一瞬たじろいだが、ナイフが自信を与えてくれたらしい。
「しゃらくせぇ！」
「洒落にならない怪我はさせたくないなァ」
　打ち込むことはせず、飛びかかってくるその手元に鎖分銅を当て、ナイフを絡め落とす。
　隙をついて不良の懐に飛び込んだ刀が、手刀で不良の喉を突く。呼吸が止まったところで、源三が後ろから不良を抱え上げ、海老反りなって後方へ投げ飛ばす。
　どーん、と鈍い音がして、不良は伸びた。気絶したようだ。
「うし！　これでこっちも『得物』が手に入ったぜ！」
「なんだとぅ？」
　残る不良たちが色めき立つ中、源三はパンパンと埃を払うように手を打って、伸びた不良の足を掴む。
「得物がなにかって？　てめえらの目の前に転がってるじゃねぇかよっと！」
　両手で不良の足を掴み、源三はぐるぐると回転しはじめた。
「一度これやってみたかったんだぜ！　うおらあ！　人間鈍器を食らいやがれ！」
　源三の体格とパワーがあるからこその必殺技、ジャイアントスイングだ！　
　源三は不良を振り回しながら別の不良に突っ込んでゆく。
「うわあああ！」
　まともにぶつかった不良が一人、吹っ飛んで倒れた。
　立ち上がる前に、さゆるが馬乗りになってナイフを突きつける。これでひとりはチェックメイトだ。
　源三は掴んでいた手を放して、さらに別の不良に向かって、人間鈍器を投げつける。
　仲間を避けるか受け止めるか迷ったもう一人が、結局吹っ飛んできた不良と絡まるかたちになって伸される。
　

　不良男子は残り二人。だが、それも風前の灯というやつで、片や刀の手刀が突きつけられ、片や首に梢のベルトが巻き付けられていた。
「あ、壬生先輩！！　お久しぶりでーす！　お久しぶり言うほどでもないですけど！」
「こずえちゃん。いつの間に」
「いやー、人質取ったり汚いんでー、つい背後からベルト巻いちゃいました。おっと、不良さーん、動かないでくださいねー。もっときつく締めちゃいますよー？」
　梢はニコニコしながら脅しをかける。
「もういいじゃないか。諦めろよ」
　刀が不良たちに言って諭す。
　拳を下した不良仲間を見て、リーダーのアゲルが吼えた。
「テメェラァ！　こんだけメンツ潰されて、無傷で帰れると思うなよォ！」

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