深夜激走！　寝子島仮装マラソン大会｜リアクション

深夜激走！　寝子島仮装マラソン大会

　クエスト2の席には、行梨謡と丑都渡紗姫の『魔女と魔法のほうき』コンビもいた。クエストをこなすと言うよりは、ホームドラマのようなギャグシーンが繰り広げられていると言う方が近い光景が繰り広げられている。魔女姿の紗姫は、上品なしぐさでゆっくりうどんを口に運んでいる。商店街協賛のサンマ入り煮込みうどんは、一見ゲテモノ風だが味は確かだ。
「んっ。おいしいじゃん」
魔女様は食を楽しむだけでは飽き足らない。隣のしもべ、魔法のほうきにちょっかいを出し始めた。
「ほーらいきなし。早く食えよー」
熱々のうどんを数本、自分のどんぶりと格闘中の謡の口にダイレクトに突っ込む。
「あっつうううい！」
魔女様の『バイオレンスあ～ん』に、謡のほうきを模した髪の毛が逆立つ。口の中が限界突破寸前の熱さで満たされて、謡は情けない悲鳴を上げた。たまらなく熱い、辛いが吐き出すわけにはいかない。謡は涙目になりながら、懸命にうどんを飲み込んだ。多くの人々がその光景をおもしろそうに見ている。紗姫だけでなく、スタッフも観客も、すべての女性が魔女のように思えた。

「えっほ、えっほ……次こそは！」

　第二クエスト会場はずいぶんとにぎやかだ。まるで立ち食いそば屋のようなわいわいとした雰囲気の中、詠坂紫蓮は席に着く。すぐに、初夏の気温にも負けずもうもうと湯気を立てるどんぶりが出てきた。
「……ひょっとして、早食いのクエストですか!?」
「早く食べるも食べないも本人次第さね」

クエストスタッフとして参加の宇佐見満月がからからと笑う。大盛り、あつあつのうどんを目の前にして紫蓮はぱちぱちと瞬きした。
「うどんは好きだけど、この大盛りっぷりは……！　しかも走って体が熱くなってるところにこれ!?」
だしのよい香りが鼻をくすぐる。これは間違いなくおいしそうだ。紫蓮は覚悟を決めて箸を持つ。猫耳フード少女の決意に満月は七味ぶっかけで応戦することはなく、婦人部のおばちゃんたちも男子ランナーに対する時より優しい目をしている気がした。
「おいしいっ！」
イベントフードの中にはいい加減なものが出てくる場合もあるが、これは違う。柔らかく、香り高く、味わい深い。おふくろの味という言葉が似合う素朴な煮込みうどんだった。しかし食べているうちに紫蓮の表情はだんだん苦しげなものに変わっていく。
（ど、どうしよう……さすがに多い、これ……！）

　なんとか10点を獲得するため、紫蓮は必死の思いでうどんを平らげた。婦人部の人々の応援の声を背に、ふらふらと走り出す。足取りが重いのは、おなかがいっぱいなだけが理由ではなかった。猫耳がフード、今、猛烈に暑い。
「ふぇぇ……さっきより汗、やばいかも……」
体は汗でびっしょりだ。フードの下の薄いシャツが、とても危険なことになっている。目を凝らせば、透けて見えてしまいそうだ。なんとかしたい、フードを脱ぎたい着替えたい、しかしそれでは仮装にならない。紫蓮は耐えて走るしかなかった。
「夜中でよかった……」