深夜激走！　寝子島仮装マラソン大会｜リアクション

深夜激走！　寝子島仮装マラソン大会

「さあー！　よい子のみんな！　夢を忘れない大人のみなさんも！」
「愛の癒し系ヒロイン、『キュアプリンセス』ショーがはじまるよー！」
一方スタジアムに設けられたアトラクションブースに少女の声が響く。

マイクを手にしているのは響タルト。仮説ステージが一般に開放されることを知って、美少女ヒロインが活躍する即興劇を行うことにしたのだった。彼女の魔法少女風な白いバトルスーツと対照的な、襟の高い黒い服に身を包むのはオリガ・ドラグノーヴァ。タルトの愛らしいコスチュームとは対照的に、大人っぽくセクシーな印象だ。夜の外出を特別に許された子供たちとその父兄、そして萌えを誰より理解する『大きなお友だち』がステージに詰め掛ける。

二人は向かい合ったかと思うとぱっと飛びのき、ステージの両側からにらみ合う形となった。
「今日こそ決着をつけてみせる！　死霊術士、ネクロクイーン！」
ネクロクイーンと呼ばれたオリガは、裾の長いコートをばっと翻し、まがまがしく光る黒い杖をかざした。
「クフフフフ♪　何度挑んでも同じことだ、キュアプリンセス。君が何度『アイノチカラ』とやらで僕を倒しても……わかっているだろう？　……僕は何度でもよみがえる！」
オリガが杖を振ると、タルトの足元で派手な火花と煙が上がる。あらかじめ設置しておいた仕掛けによるものだ。プリンセスを応援する観衆から悲鳴が上がる。タルトは舞い上がる火の粉を華麗なジャンプでかわした。魔法少女のドレスの裾が踊ると、魅了された大きなお友だちから野太い声が発せられる。
「みんなの笑顔は、僕が守って見せる！　BLシャワー！」
原理はよくわからないが、タルトの白い武器からピンクのビームが伸びる。紙一重のところで交わし続け、激しい魔法戦を繰り広げる二人の少女。だがしかし、ついにタルト＝プリンセスの一撃が、オリガ＝クイーンの肩を切り裂いた。
「あうっ……はあっ」
オリガのセクシーなあえぎに、お子様連れの若いお父さんたちの喉がごくりとなる。
「くっ、こうなったら……！」
わくわくとショーを見ていた最前列の少女にオリガは駆け寄る。五、六歳ぐらいだろうか。
「このクイーンに力を貸してくれるかい？」
と優しく問いかけると、女の子は笑顔で大きくうなずいた。オリガは両親と思しきそばの大人に目配せし、女の子を抱き上げる。
「クフフフ……アハハハハ！　この子を見ても、同じように攻撃ができるのか？」
「ひ、卑怯な！　その子はまさか『聖剣の鍵』……！」
この舞台はもともと即興劇。オリガの大胆なアドリブに、タルトは迷いなく続いた。愛のプリンセスと死をつかさどるクイーン、そして突如現れた聖剣の鍵を軸に、物語はますます盛り上がっていく。どうやら一部の観客はマラソン観戦も忘れてステージに夢中になってしまっているようだ。