深夜激走！　寝子島仮装マラソン大会｜リアクション

深夜激走！　寝子島仮装マラソン大会

　ほのかに思い合う二人、多喜勇生と常盤四月のマラソンはゆっくり、のんびり、まったりと。最後尾の辺りを走っている。おしゃべりをしながら、夜道を走るのは新鮮な体験だ。二人ともいつもと違う装いのせいか、いつもより大胆になれそうな気がしていた。だが、実際はそこからなかなか踏み込めない。互いに手探りをするように、言葉を交わす。家族のこと、趣味のこと。他愛もない話題も、想い人をより深く知る大切な手がかりになる。このひと時は今の二人にとっては何より大切なものだった。

（マラソンしながらおしゃべりする四月ちゃんも、かわいいなー）
（すごく楽しい！　多喜君のこと、もっといーっぱい知りたいな）
「あ、そうだ」
「あの……」
同時に言葉が出かけて、止まる。
「四月ちゃん、先どうぞ」
「う、うん……」
「趣味の話だったよね？」
（どうしようどうしよう……多喜君には、あたしの秘密、教えてもいいかな？　BLのことはナイショだけど、漫画家として活動していることだけなら……？）

「あ、あの、あたし、漫画……」
「うん？」
「あ、好きな漫画の話、もうちょっとしようかなって！」
（だめだぁ！　どんなの書いてるの？　って聞かれたら見せられないよー！）
どうしても言い出せない。

もじもじとする四月を見つめて、勇生は考える。
（四月ちゃんは漫画が好きなんだったよね。トリエンで落としてた『薄い本』の話はしないのかな）
四月は話し出さない。話し出せないのかもしれなかった。
（気にはなるけど、隠したいことなのかも。僕もそういうのあるしな）
勇生が隠したいことといえば、自分の目つきのことだった。分厚い眼鏡で隠しているが、実は釣り目の三白眼というちょっと怖い特徴を備えている。おっとり目立たないという彼の印象は、ひとたび眼鏡を外せばがらりと変わってしまうだろう。
（この目つき、もし四月ちゃんに見られて嫌われたら一生立ち直れないよ！）
「そ、そっかー！」
本心とはまったくよそを向いた、好きな漫画の話になってしまった。そして二人は考える。
（なんでこんなに隠したいんだろう？）
（どうしてこんなによく思われたいとか考えちゃうんだろ？）

（ひょっとして、自分の気持ちって……？）