喫茶「セピア」営業日誌：歩き始めた｜リアクション

喫茶「セピア」営業日誌：歩き始めた

「ふ、ふふ……それでは、改めまして。寝子島あんみつ友の会・名誉会員の結さん。本日は、ご一緒できて光栄です……！」
　喜色満面の笑みを浮かべて、アケーチは言った。だがしかし、「寝子島あんみつ友の会」などというものは、今現在において、この寝子島には実在しない。もともと、息をするように嘘を吐くアケーチである。慣れているのか、冗談と思ったのか、結はくすくすと笑うばかり。
　そんな二人の間、仲良く並んで置かれたあんみつは、彼と彼女にとって、とても大切な共通点だった。あんみつへの愛を熱く語り合いながらも、二人の手は行儀よく、卓上の甘味を口へと運ぶ。
「ああ！　やはり、おいしいです……！　なめらかな舌触りのあんこ、つるりと喉ごしの良い寒天、そしてこの絶妙な甘さのバランスに、私とろけてしまいそうです……！」
　身をよじらせ、頬をかすかに赤らめたアケーチは、うっとりと息を吐いた。
「こうして、おいしいあんみつが食べられますのも、結さんと縁を紡いでくださったのも、すべては『セピア』があるおかげ。悠弥さんや、依菜里さんにも、感謝しなくてはなりませんね……！」
　けれど、そこでふと、アケーチは向かい合う結を見つめて、うれしそうに笑う。「そして」と、濡れた唇が、ゆったりと言葉を紡ぐ。

「何より、ご一緒してくださった結さんに、感謝です。またぜひ、ご一緒できたら幸いです。ふふ……！」