ライブラリ・ラビリンス｜リアクション

ライブラリ・ラビリンス

■廊下
　色褪せた赤い絨毯の敷かれた廊下。
その廊下全体を調べようと思い立ったのは、武道ただ一人であった。
壁に掛かっているもの、床に落ちているもの、そういった生活の足跡に
注意を払いながら調べ上げていく。
「……っていうか絨毯ひかれた図書館、って時点で高級そうな感じがするんだけど。
いつの時代のどんな人が使ってたんですかね～」
　この朽ち果て具合からして、少なくとも寝子島高校生ではなさそうだな、
などと考えながら、廊下の壁、床、更には天井を見上げて廊下を何往復もしてみる。
壁の装飾や絨毯の模様になにか法則性はないか、窓に仕掛けはないか。
丹念に調べていったが特にこれといった収穫はなく、そろそろ一旦集合か、と
何の気なしに窓の外に目をやった武道は自身の目を疑った。
　日が、暮れかけている。
一同が図書館に入った時点では、太陽はまだ明るく空に輝いていた。
そこから図書館に足を踏み入れ調査を開始してから、
どんなに長く見積もってもまだ二時間も経っていない。
五月の上旬、冬ほどの日の短さもないはずだ。
「もしかしてこれ、やばいんじゃ……」
　武道は慌てて、一同の集合場所へと駆け出した。

■集合
　集合した一同は、各々調査の結果を報告する。

　右の部屋を探索したメンバーからは
綾花・振り子が動かない時計のこと、それから見つけた日記のこと。
天吏・学術書に一冊だけ混じっていた図鑑のこと。
紫・学術書の中には異国の言葉で書かれたものも多いこと。
静・読書用の机はまだ使用可能だということ。
モニカ・落ちてきた古い写真を入手したこと。

　続いて受付カウンターを探索したメンバーからは
美咲紀・カメラのシャッターが下りないこと。
修・ここには電話機がないこと。
樹・図書館全体の地図を入手したこと。
楓・猫の足跡の印章が掘られた指輪を入手したこと。

　最後に廊下を探索していた武道からは
・図書館の外ではすでに日が暮れ始めていること。
がそれぞれ報告された。

「どういうこと？　私たちが図書館に来たのは、まだ昼間だったはずよね」
　紫が訝しそうに首をひねる。
「図書館の中に居ると、時間の感覚が狂う……とかなのかしら」
「いよいよ怪談じみてきた、ってことか……」
　天吏の推論に静も眉間に皺を寄せて考え込んでいる。
「日が落ちると、帰りのけもの道を見失う可能性もありますよね……」
「いくら寝子島内でも、夜の山道は遠慮したいよなあ」
　心配そうに図書館の外を気にする綾花に、武道も同意する。
しかし。
「でも、まだ図書館の謎を解き明かし切れていませんですよ？」
「確かに。西館の鍵も見つかってないよね」
「図書館自体、一度外に出たら再訪問できるかどうかすら怪しいものだ」
　美咲紀と樹、修は未だ探索しきれていない図書館内部に後ろ髪を引かれているようだ。
他のメンバーも、帰り道の心配はしつつも、やはりまだ探索を続けたい気持ちもある。
この図書館にたどり着いたこと自体想定外だったのだ。無理もないことだろう。
「ま、確かに先は気になるし、かといって帰れねえのも困るよな」
　本人の中でも安全確保と知的好奇心がせめぎ合っているのであろう楓の言葉に、
そこにいた誰もが頷いた。
「じゃあ、こういうのはどうかしら。
あと少しだけ調べて、窓の外が夕暮れになったら帰るの」
　モニカの提案に一同賛成して、再び東館の探索に赴いた。