ライブラリ・ラビリンス｜リアクション

ライブラリ・ラビリンス

■受付カウンター
　「さっきの部屋の本棚、思ったよりも散らかっていたのね」
楽しかったけど少しくたびれたわ、と。
受付カウンターの周囲を流し見しながらモニカが苦笑する。
この場所を次の調査場所に選んだのは
もちろん重要な情報が眠っていそうと考えたからではあるが、
少し疲れた体を静かなところで休めようという思惑も大きかった。
幸いにして、このあたりの調査は先に来ていたメンバーとの共有もできていたので
彼らの話では話題に上らなかった部分を中心に調べていく。
と。
廊下の向こうから、受付カウンターを目指して歩いてくる人影がふたつ。
綾花と武道だ。
綾花がモニカの姿を見つけて、はにかむような笑みを浮かべる。
「あら、モニカさんもここを調べにいらっしゃったんですか？」
「俺たちもお邪魔していいですかね？」
　お役に立てるかわかりませんが、と武道は謙遜するが、
彼らも優秀な調査メンバーであることはモニカもわかっている。
「あなたたちがいてくれれば心強いわ」
　とモニカも快諾し、三人で受付カウンターの調査を進めることにした。
「とはいえ、ここらへんの紙類は全滅だってさっき皆が言ってたよな～。
……うえ、本当だ」
　武道が手近にあった貸出カードを数枚捲ってみて、大げさな声を上げる。
紙類は諦め、受付カウンターの抽斗を引っ張り出して外し、
机の内側まで確認していく。
　綾花もまた、受付カウンターにあった紙類に皆が見つけたものや
発見したことのまとめリストを作ろうと思っていたのだが、
使用可能な紙も筆記用具類も見つからず、仕方なく断念せざるを得なかった。
　受付カウンターを隅々まで調べ上げる武道と綾花を見守りながら、
モニカはこの図書館の存在自体に思いを馳せる。
黴だらけで読めなくなった書類や図書カード、そのわりには保存状態の良い館内。
もしも書類やカードが仮に汚損していなかったとして、果たしてそれが読めたのだろうか。
誰が建てたかもわからない、どんな人がどんな時に利用したのかも不明瞭なこの図書館。
そもそもここにたどり着いた経緯だって不思議な偶然で、それ以上でもそれ以下でもない。
噂話の国の建物なのだ、もしかしたら、こちらの常識では計れないこともあるかもしれない、と。
そんなところまで含めて、想像する楽しみもある、不思議な場所ね、と。
まだ見ぬこの先のエリアにも思いを馳せ心踊らせるモニカの耳に、
綾花のあっ、と驚く声が聞こえた。
「何か見つかったかしら？」
「あの、カウンターの下にこれが……」
　綾花が受付カウンターの下から引っ張り出したのは、
彼女の手には余るほどの大きな鍵だった。
装飾などは見当たらず、ただただ武骨で質素な鍵は
西館の入り口に掛けられた南京錠と同じ色をしていた。
「もしかして、それ、西館の鍵だったり……するかもな」
　口調は軽いが、武道の表情は真剣そのものだ。
「急いで皆に知らせましょう」
綾花の言葉にモニカも神妙な表情で頷いて、三人は受付カウンターを後にした。

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