ライブラリ・ラビリンス｜リアクション

ライブラリ・ラビリンス

■東館、調査開始
　九夜山、けもの道の先の先。
ふもとの住民も立ち入ることのないこの場所に在る、
迷信でしか語られたことのない不思議な図書館。
そんないかにも怪しげな図書館を
同日同時刻に調べようと思い立った10人の若者たち。
　集まったのは偶然か、あるいは必然なのかもわからないままに、
彼らは目的を同じくする者同士、不思議な縁を感じながらも
協力して探索を進めることにした。
　
「ずいぶん、古い建物みたいだな。
あちこち崩れそうで、危ないったらありゃしねえ」
　大げさに溜息を吐いて、夜海霧楓は図書館を仰ぎ見る。

しかし、その横顔にはどこか隠しきれない好奇心が見え隠れしていた。
剥がれかけた壁、窓枠から外れかかった窓、割れて散乱した窓ガラス。
危機管理もままならない一般人が迷い込めば、あちこち怪我をしかねない状況だ。
「でも、廃墟探索って、ワクワクするよね！」
　そんな周囲の様子を一瞥して、新田樹は明るく言い放った。

三度の飯よりスリルが好き、と言ってはばからない樹だが、
スリルには危険も伴うとよく理解してもいた。
廃墟探索にはもちろん危険が伴うものと、あらかじめきちんと装備を整えて、
スリルを最大限に味わいに来ているのだ。
「でも、すこし怖い気もするわ……」
　大天使天吏が、淡々と自分の感情を口にする。

日課の野鳥観察の途中だったのであろう装備は、
奇しくも探索にも適した装備であると言えた。
「迷信でしか伝わっていない図書館、か。気になるな」

「でも、変ね……。こんなに情報が見当たらない図書館なんて、あるのかしら」

　八神修と仙藤紫は既に、辺りの様子を探ることで調査を開始していた。
修は、どこかにこの図書館の情報を探る手掛かりになるものはないかと
盛んにあたりを見回っている。
紫は紫で、壊れた石碑、劣化した立札などはないかと、
主に文字情報を探して図書館周辺を探ってみていた。
　調査の結果、建物の規模は、寝子島高校の講堂程度。
二階建てで、特に酷く損壊していたり、燃えているなどの傷みはないようだ。
建設年や建設会社、館名や創立者というような図書館が建てられた背景に関する痕跡は
在るはずの場所に書かれていなかったり、存在が確認できなかったりして、
なぜか一つも見当たらなかったことが、発見と言えば発見だった。
おかしいな、変ね、と互いに話す修と紫に、椿美咲紀が声をかける。
「まあまあシュー君、中を調べたらまたなにかわかるかもしれないですよ」

　だから中に入ってみましょ、と。
促す美咲紀に綾辻綾花と英モニカも同意する。
「そうです、中にはきっともっとたくさんの秘密があるはずです」

「それからもちろん、たくさんの本もある。楽しみね」

　本好きなふたりは、廃墟の謎を解明すると同時に、
見たことのない本や文章に触れられる可能性にも期待を抱いている。
慣れない山道を歩き、苦手な虫に遭遇する可能性を考慮しつつも
廃墟の探索に乗り出すほどなのだから、その書物愛は筋金入りと言って差し支えない。
そしてもう一人。
服部静もまた、趣味の廃墟巡りと美術探訪を同時に行えそうなチャンスに
ひそかに胸を高鳴らせていた。

どんな美が待っているかな、とばかりに、玄関や扉の意匠を調べているが
どう検討しても年代やモデルとなった国籍を絞り切れずにいた。
見るたびに新たな特長を発見しているような気がして、なんとも落ち着かない。
「じゃ、とりあえず中に入ってみようか。足元、気を付けてねぃ」

　廃墟に足を踏み入れるというのに、どこか軽くも聞こえる志波武道の言葉を皮切りに、
一同は気合を入れて図書館の中へ足を踏み入れた。

　吹き抜けのエントランスを通り抜け、一同は図書館内の東館へと足を進めた。
「ふむ、外観もそうだが、内部も思ったよりも保存状態はいいな」
　そういって、静は辺りを見回した。
　廃墟巡りを趣味とする彼の目から見れば、
老朽化はしているものの、酷く崩れたり床に穴が開いていたりといった
命の危険に直結しそうな箇所は見当たらない。
「大きな危険がないのなら、それぞれに手分けして探すのはどうかしら」
　そう落ち着いた声で提案したのは紫だった。
確かに館内の広さを考えれば、全員で動き回るよりも、
個々に調査をして成果を共有する方が効率が良いと思える。
ある程度調べたらエントランスに集合し各々の調査結果を報告し合うこと、
なにか危険を察知したら大きな声で皆を呼ぶこと、と取り決めをして
一同はそれぞれに目星をつけた場所の調査に向かうこととなった。

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