隔絶された街の囚われ人（ＭＭＯＲＰＧ寝子島奇譚）｜リアクション

隔絶された街の囚われ人（ＭＭＯＲＰＧ寝子島奇譚）

　塔の中は静まり返っていた。人の姿は見当たらない。壁に吊るされたカンテラの灯が時に揺れる。有りもしない人影を瞬く間に生み出して一同を緊張させた。
　奥には螺旋階段があり、上の方まで繋がっているようだった。
　天野が目で確認して他の者に伝える。
「螺旋階段が使えそうだね。僕が先頭で外側を歩くよ」
「僕は内側だね」
　円は天野と並んで上へと向かう。幅の狭さもあって必然的に真央とタルトが後方に回った。
「同じところをグルグル回っているみたいだね♪」
　タルトが浮かれた声を出した。真央ちゃんもなのだ、と声を揃えた。
　大きな円柱の中を回っている。そのような錯覚に陥ってもおかしくはない。代わり映えのしない光景が続いていた。
「そうだね。でも、大丈夫だよ。僕が階数を数えているから。それにいざって時は透視もあるからね」
　天野の心強い言葉に各々が笑顔を作った。
　ようやく五階に到着した。通路は緩やかに左に曲がっていて右に木製の扉が並んでいた。
　天野は目を見開いた。近い扉から順に見ていく。
「手前から四つ目の扉に、彼女がいるよ」
「真央ちゃんの出番なのだ」
　飛び出そうとする真央を天野が手で制した。どこか目が泳いでいる。
　原因は慌ただしい音でやってきた。
「ここはどうかな♪　いませんねぇ」
　無造作に扉の開閉をしているのは姫神絵梨菜であった。動作の度に揺れる胸は純白のスカーフで覆われて背中で結ばれていた。同色のスカートの丈は限りなく短い。
「ここですかっ。着替えてたのか、ごめんね。でも、女の子なんだから、ちゃんと鍵をかけないとダメだよ♪」
「君は何者なのかな」
　天野の問い掛けに絵梨菜はツインテールを左右に広げて振り向いた。幼い顔で挑戦的な目をする。
「ある時は可愛い踊り子、またある時は正義の美少女怪盗！」
「それって強盗じゃん？」
　タルトの感想に似たような言葉が囁かれた。そこに天野が言葉を付け加える。
「さっきの様子だと、押し込み強盗かな」
「な、な、なに言ってんのよ！　正義って言葉が前にあるんだから、怪盗を名乗っても義賊に決まってるよね？　もう、天然さんなんだからぁ♪　そんなみんなには私が必要だよねっ」
　顔を赤らめて力説する絵梨菜を一同は微笑ましい顔で迎え入れた。緊張感が薄れた状態で問題の扉の前に立つ。
「ここに捕らわれた人がいるのね。私に任せてよ」
　絵梨菜は扉に付いた鉄の輪を握って引っ張った。何度も同じ動作を繰り返して手を離した。
「鍵が掛かっているみたいだね」
「真央ちゃんのがおーに鍵を取ってこさせるのだ！」
「少し待ってくれるかな。僕が透視で鍵を探してみるよ」
　天野は近いところから目を向けて徐々に範囲を広げていった。左前方の斜め下、不意に視線を止めた。
「相手に気付かれたのかな。四人の戦士がくるようだね」
「がおーに任せるのだ」
　真央はふくよかな愛猫を胸に抱えて願い事を口にした。
「がおー、誤魔化すのだ。あっちで騒ぐのだ」
　がおーは耳をピクピクと動かした。真央の腕から跳び出して戦士に向かってまっしぐらに走り出した。
「さて、これからどうしようかな」
　天野の声に即断する者はいなかった。各々が小難しい顔で黙り込んでしまった。