SIRASU｜リアクション

SIRASU

　お待たせいたしました。そういった声と共に、二人の前にしらす丼が置かれる。ヴェルトの前に置かれたどんぶりには、生のしらすが薄灰の身体を白い米粒の中に横たえていた。新鮮なそれは、今にもぴちぴちと動きだしそうに見える。そして、メーベルの前に置かれたどんぶりには、茹でられてすっかり白くなったしらすが白米の上にこんもりと盛られている。ヴェルトは二人のどんぶりを見比べて口を開いた。

「これが生しらす丼か……」
「生と茹でたもの、かなり色味が変わってくるのですね」

　メーベルも彼の言葉に続いて言う。ヴェルトはまた自分とメーベルのどんぶりを交互に見る。

「アレは生だとこういった色合いなのだね？」
「先生のものはかなり新鮮そうですね。やはり、海の近い寝子島ならではの名物……ということでしょうか」

　二人が話していると、醤油をかけてお召し上がりくださいと店員が付け加えた。屈強な男たちが、二人をじっと見ている。そんな中、ヴェルトはその視線も気にせずに手を合わせ、メーベルもそれに倣う。いただきます。二人はそう言って食べ始めた。

「……なんだ、美味いじゃないか」
「……思ったよりかなり食べやすいですね。加熱してあるからでしょうか？」

　それぞれしらすを口にして、思い思いの感想を述べる。海鮮特有の青臭さはあるものの、新鮮なしらすはかけられた醤油と絶妙に絡み合って、美味い。釜揚げのものは癖がなくて食べやすかった。二人が美味しそうに食べているのを見て、店の中のヴァイキングが一人、二人と消えていく。

「君のもくれ」

　半分ほど食べたところで、ヴェルトが戯れにか、自分のしらす丼をメーベルに差し出した。メーベルはそれを口に含んでから、味わう。そして飲み込み、ヴェルトのために自分のしらす丼を分けた。

「ええ、今取り分けますので少々お待ちを」

　小皿に盛られたそれに、ヴェルトは手を付ける。生しらすとは違った味わいに、ヴェルトはしみじみと箸を進めた。

「うん……こちらも美味いね」

　ほう、と息を吐きながらこう呟く。二人がしらす丼を食べ進めているうちに、ヴァイキングは店から消えて、メニューも元のものに戻っていった。店員が既存のメニューを持ってくるが、二人とも気付かない。ヴェルトはしらす丼を味わううちに、星幽塔でも食べてみたい――という気持ちになってくる。しらすとは小魚、もとい稚魚だという話を耳に挟んだヴェルトは、メーベルに向かってこう言った。

「捜せば星幽塔にもああいう店はあるのではないかね」
「ふむ……そうですね」

　メーベルは手元のどんぶりを見て頷く。

「小魚を白米に乗せたもの、と考えれば類似品はあっても可笑しくないですね」

　となれば、探す甲斐はあるものだ。最近は寝子島から訪れた人間の影響を受けて、新しいものが店に出ることもある。その中にしらす丼のようなものもあるかもしれない――二人はそう考えつつ、箸をおいた。代金を払い、空になったどんぶりを片付けて店を出る。

「よろしい。今度の休みは食べ歩きに行こう」
「魚が豊富に漁れる階層に行ってみましょうか」

　寝子島の海を横に見ると、二人はあることを思い出した。あの歌っていた屈強な男たちは、どこにいったのだろう？　ヴェルトが先に口に出す。

「しかしあの歌いだす男たちはなんだったのだろうね……いつの間にか消えていたけれど」

　しかし、こんなことを問われてもメーベルにだってさっぱりわからない。メーベルはこう答えてから首を振って、どこかうつろな目をして水平線の向こうを見た。日の光が水に反射して、キラキラと輝いている。

「……さぁ、俺にもさっぱり解りません」

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