風と共にろっこん｜リアクション

風と共にろっこん

「おや？　色とりどりの風船ですね」
「向こうの通りでもたくさん見たよ。どこかでお祭りでもしているのかな」

　何気ない景色の中に浮かぶ風船たちを指差して、花椿涼太郎と鷹取洋二が、きらきら☆しゃらりら～♪と、仲良く並んで道をゆく。
　数分前にたまたま出くわした二人。
『やや！　鷹取先輩ではないですか、コンニチハ！』
『やぁ花椿くん。ちょうどよかった、今から君のところの駄菓子を買いに行く所なんだよ』
『なんという美しき運命の出会い！　そういう事でしたら僕が是非ご案内をば！』
　という会話を済ませた後である。
　そんな二人の煌めきフィルターに、鮮やかな風船が一か所に固まって寄ってくる姿が捉えられた。
　正確には、鳥たちの情報から風船を集めて回ってみている最中の水守流が持つ風船たちだ。

「ん？　そこに居る（わかめヘアーの）は確か鷹取先輩、とー……」
「寝子高2年7組、そして現在鷹取先輩の華麗なるエスコート役賜る花椿涼太郎だよ！」
「良い風船日和だねー」
「こんちは」

　流の顔の横でぷかぷか揺れる風船たちを目にしてはほんわか和みムード。
　も、ほんの一瞬だった。
　パァァアンッ！

「うぉっ」
「わ！」
「あああ！　まさか僕の美しき輝きが強すぎて風船が耐えきれず……！？　ごめんよ君の風船を……！」
「いや大丈夫だ。適当に拾ったから俺のじゃないし（誰かのろっこんかもだけど）」

　嘆く涼太郎が大袈裟にヨヨヨと跪いたその背中へ、今割れた水色の風船が霧となって吸い込まれる様子を目にして、流は瞳を丸くしつつ見守ってみる。
（なお、鷹取先輩は涼太郎を宥める為一緒にしゃがみ込んでいたので全く気付かなかった模様）

「ほら花椿くん。そのポーズも美しいけれど、折角なら全身ボディを存分に活かして、手は天に」
「それもそうですね！」

　美の芸術家たちの慰めや立ち直りは、一般人の斜め上空にあるようだ。

『このニンゲンたちおもしろいね！』
『まるで空を飛ぼうとでもしている仕草ネ。ニンゲンも飛べるのかしら？』
「……そう言ってやるな。俺も思うけど」

　こっそりと、肩の鳥たちと会話する流。
　改めてポーズを取り直そうとした涼太郎が片足を一歩踏み出した途端、マンホールがすぽーん！　と抜けた。

「わーーー！！！」
「は、花椿くん！？」
「ってなんかバラまかれたぞッ？」

　あわや落ちるぎりぎりで、縁に両手かけ踏ん張った涼太郎を引っ張り上げようとする流が何かに気付いた。
　一体どこに入れていたのか、落ちて身体が浮いた衝撃で涼太郎の服の至る所から飛び散った薔薇の花びら。
　フローラルな良い香りが広がった。

『わ♪　よいにおい！』
『おいしそうなお花ねっ』
『あれ？　ぴかぴかしてるのもあるよ』
「うん？？？」

　花びらにはしゃいで舞い降りた小鳥たちの会話から、そちらを覗き込んだ流は一本のボールペンを拾う。

「あ、それ僕のだ！　どこに落としたかなって、前から探していたんだよね」
「……マンホールの蓋の、ちっこい穴にでも挟まってたのか？」
「良かった、お気に入りだったから！　花椿くんありがとう！」
「なんと、人様に幸運まで呼び込む美しさ！
　いえいえ鷹取先輩、僕は何もしていませんから、はーっはっはングッホゴホーっ！！」

　高笑いしようとして失敗。むせた。
　ごく一部の方はお気づき、かもしれない。
　涼太郎に吸い込まれた水色ろっこん風船、
　能力：一定範囲内の自分以外の人達を幸運にする。幸運にした分、代わりに自分は不運になる。
　どう収拾をつけたものか……と、困惑し始めた流の視界に、再び水色風船がぷっくーと姿を現した。
　涼太郎から抜け出たらしいそれを、はっしと掴んでから。

「怪我は無さそうだな。じゃ、俺はこれで」
「ああ、またね」
「美の加護があらんことを！」

　流、そそくさと収拾を諦め逃避もとい立ち去った。
　その背後からは『はーっはっはっは！　今日は僕の美しさに妖精さんが嫉妬してるのかな！？』と
　改めて絶好調に笑う、ポジティブな声が響くのだった。