風と共にろっこん｜リアクション

風と共にろっこん

「……あおい？」
「あっ、修くん～～～～」

　ふんわり揺れるツインテールを目撃し無意識に名を口にすれば、愛らしい表情がこちらを振り向いて、
　八神修の鼓動がトゥンクッ……と音をたてる。
　しかして声のトーンと、いつもの元気印な明るい空色の瞳が若干かげり『ヘルプミー』と訴えている気がして、修は足早に七夜あおいへと寄って行った。

「どうしたんだ？」
「あの、ね……届かなくって……」

　ちょっぴり恥ずかしそうに指差された先、木の枝に風船が糸ごと絡まっているのを見て瞬時に察する。
　ＯＫ、ちょっと待ってな、と優しく声をかけてから、ぐぐっと手を伸ばしてみる修。
　くっ……ぎりぎり届かない……。
　手を下ろして、今度は太い幹に足をかけて、………すぐにやめた。
　潔く次の手に行くのも時間効率的に云々。自身に言い聞かせてから、修は躊躇わず四つん這いになった。

「え！？　修君！？」
「ほらあおい、踏台が出来たからこれで届くだろう」
「私が乗るの！？」
「他に誰がいるんだ」

　男性に身を預ける事すなわち、乙女の秘密（＝体重）という極秘事項が頭をよぎったものの、風船見上げれば意を決するあおい。
　靴を脱いで『ごめんねっ失礼しますー！』と律儀に言葉をくれるコへ、微笑んで促して。
　――　……軽い、な……。
　重みが来るも、許容範囲以下というか予想以上に軽くて。
　背に伝わる温度に愛しさ増せば、動かないよう気を付けながらも心臓の鼓動が早くなるのを感じた。

「取れたか？」
「うん！　修君本当にありがとう！　……大丈夫？」
「問題ない。一瞬、乗ったのか分からなかったくらいだよ」

　またまた～っという視線を受けるも、本心なんだがと真顔で返したり。
　無事取れたらしい風船を見やれば、……珍しい色だな、とまじまじ。
　と、そんな修の横にもいつの間にやら風船がぷっかぷか。

「今日、風船そういえば多いよね。何かやってるのかな？」
「調べてみるか」

　迅速にねこったーを開く修。
　風船の正体を検索したり、情報を求めたりしてみれば難なくどういった物か、何が起こっているか、把握することが出来た。
　ろっこん風船なのだと、今得た情報を修はあおいと共有する。

「あおい、割ってみる？」
「いいの？☆」

　疑問形だが、説明途中からすでに興味津々という表情浮かべていたのを見ていた修、微笑ましそうに頷いて『もし何かあっても、俺が何とかするから安心して』と付け足した。

「木に引っかかってたコレも、本当に誰かの落とした普通の風船じゃ、無いよね？」
「……それは特に、まず、間違いなく、ろっこん風船だと思うぞ。なんせ　金　ぴ　か　だし」
「じゃあコレ割ってみる！」

　言うが早いか、あおい、両手で風船挟み思い切りよくパァアンッ！
　途端、キラッキラ光る金色の霧となってあおいへと吸い込まれた。
　少し表情引き締めた修が、あおいの身体に異変は無いか観察する。

「平気か？　どこか変な感じは、…………」
「うーん、特に何にも。普通の風船だったのかな、ってアレ？　修君？　どうかした？」
「…………」

　こてん、と小首を横たえたあおいが、いつもの何倍も可愛く輝いて見える！
　まて。直視できない。神々し過ぎる。あおいへの愛が溢れ返ったのか？　落ち着け俺。
　修氏、一旦瞼閉じてスーハーッ。
　もう一度目を開くも、やっぱりあおいは眩しかった。が、それが『物理』的に光っているのだと気付けた。

「あおい、あおい、物凄く輝いてるぞ」
「え、えっ？　そそそんな急に褒められても……っ」
「いやうん。いつも笑顔素敵だけど、今は本当にあおい自身が光を放ってるっていうか、な？」

　おもむろにエチケット手鏡を差し出した修に、不思議そうに鏡に自分を映せば『わ！？』と目を細めたあおい。
　どうやら理解したらしい。
　周辺の人たちも眩しそうなので、とりあえず路地の隅っこへせかせかと移動する二人がいた。