風と共にろっこん｜リアクション

風と共にろっこん

　小腹がすいた、と桜花寮からほど近いベーカリーショップへ足を運んだ水守流の後頭部付近でも、
　桜色した風船、だった霧が今まさに吸い込まれていたり。
　焼き立てパンの入った紙袋から良い匂いが漂えば、歩き食いしちまうか？　とガサゴソ一つ取り出してみる。
　『わぁ！　おいしそう！』
　――　……ん？
　『わたしたちにもくれないかしら……！』
　どうにも、自分の持つパンについて語られている声が聞こえた気がした。
　きょろきょろ。

　　　　　　　　　　　　　　　　　「誰もいねーな、気のせいか……」

　『ほんのちょっと！　ちぎって放ってくれればいいのにぃ……！』
　――　って上？
　あきらかに頭上から声高にピーチクパーチク耳に入って、流は首と視線を上向かせる。
　『……あれ！？　目が合った！』
　『ちょうどいいじゃない！　ねぇ、それちょーだいちょーだい♪』
　流、しばしスズメやハトとその左右へ窺うように瞳を動かしてみるも、どうみても鳥たちしかいない。

「……って鳥がしゃべってるのか？！　
　おいおい、いよいよこの島猫だけじゃなく鳥までしゃべれるようになったのか！」
『えー、ボクたちまいにちお話してるよー？』
『いつもなにかに夢中で気付かないんじゃない？　ニンゲンたちはいつだっていそがしそうだもの』
「お、おお、そうなのか、ワリィ……？」

　首を傾げ傾げ。
　鳥たちへ返していると背後から通りすがりのおばさまたちが、何やらヒソヒソしているのが見えた。
　うん？　いやいやまてまて。これ俺が独りで盛大にしゃべってるふうなんじゃ？
　慌てて口をつぐんだ流の肩に、言葉を聞き取ってくれるなら話は早い！　と2羽のスズメが羽ばたいて乗ってくる。
　この島がますます未知の領域に……と思ったけれど、どうやら己が鳥の会話が聞き取れるようになったのだと思い至った。が、更に疑問が湧くわけで。
　――　俺のろっこんってそんな能力じゃねーよな……。
　何となく、試しに手に持っていたパンを一口齧ってみる。
　焼き立ての温かなふんわり生地が、口内でほどけていくのを感じて。

「あーうまい。…………発動、して無ぇのか？」

　いつもならここで、先程ひそひそ話していたおばさまを始め、自分の横を通り過ぎる大人や幼児が『パン食べたい！』とでも叫ぶところだが。
　変わらずに歩いて行く人々の姿見れば、流はもっと注意深く周囲を見渡してみた。

「ん？　風船集めてる人がいる？」
『あのキレイなまぁるいの、フーセンっていうんだ？』
『今日はよく見るわ。たまに、ろっこんかわったーとか叫んでるニンゲンもいて。何だか賑やかな日ね』
「ろっこん、変わった？」

　――　ははぁ、事件か。
　肩の鳥たちの証言により、流、ようやく現状を少し理解した。
　どうやら自分の能力がどこかへ行って、違うろっこん能力がやって来ているようだと。
　ちょーだいちょーだい！　とせがむ小鳥へ、仕方ないなとパンをちぎって差し出しながら、流は考え込む。
　普段ならば、誰かに能力使われたとて役に立たねーだろうから任せて帰るかー、というところだが。
　鳥たちの声が聞こえる今、もしかして色々面白いのでは？
　なにせ空から見渡せる偵察隊や目撃鳥が大勢いるのだ。
　――　効果がある間は鳥に聞き込みして風船集め手伝ってみるかー。

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