【遠足】テーマパークから愛を込めて！？｜リアクション

【遠足】テーマパークから愛を込めて！？

　――召し上がれ、幸せの味

　お城へと辿り着く頃には、春姫いちごはふらふらになっていた。
「う、うう、すっごく迷っちゃいましたぁ……もうお腹ぺこぺこです……」
　ツインテールもどこかへにょりとしてしまっているいちごのことを、
「……へ？　わ、ありがとうございますっ」
　マスコット猫が「大丈夫？」とばかりに席へと案内してくれる。
　ふかふかのソファ席に座って、いちごは改めてお城の内部を見回した。
　まるで本物のお城の中にいるみたい、と、胸がふわふわと弾む。
（さすが、ニャンドで一番おっきなレストランです！）
　この日の為に、お小遣いもちゃんと支給して貰っているいちご。
　好きなもの食べていい……ですよね？　と、いちごはいそいそとメニューを開いた。
「えっとえっと、それじゃあ……このパスタと……せっかくなので、プリンセスパフェも……！」
　やがていちごの前に運ばれてきたのは、魚介のクリームパスタに宝石箱のようなゴージャスパフェ。
　ふわあ……！　と、口から知らず感嘆の声が漏れた、その時だ。
「へえ、美味しそうじゃん」
　声が降ったと思ったら、いちごの向かいの席に、同じ１年生の男子が腰掛けていた。
　男子――紗雪幽は、メニューを手に、いちごへとにっと笑い掛ける。
「遠足仲間だよね？　俺、ハンバーグ頼むからさ、一口交換しない？」
「えっ？　えっと、あ、あのっ……！」
「学校行事でニャンドに来れるなんてラッキーだよね。ていうか、高校生でも遠足ってあるんだー、って」
　楽しそうに喋り続ける幽を前に、真っ赤になってあわあわするいちご。
　男の人には、人見知りしてしまう性質のいちごである。
「あ、気にしないで食べて食べて。お腹空いてるんでしょ？」
「う、その、食べ過ぎでしょうか……？　あ、朝ごはんを食べ損ねてしまって……」
「わ、朝飯抜き？　きっついね～。いっぱい食べる女の子も可愛いし、ほら、どうぞ～」
　あーんしてあげようか？　なんて悪戯めいて零せば、
「あ、あああ、あーんだなんてそんな……！」
　と、いちごの頬は益々赤く熟れてしまう。そんないちごの様子にくすりとして、
「どう？　それ美味しい？」
　と、幽が懐っこく尋ねれば、何とかパスタを口に運んだいちごは暫し考えて考えて、
「美味しいはずなんですが、よくわかりません……！」
　なんて、愛らしい反応を返すのだった。
　ははっと笑って、幽はまたまた問いを零す。
「てか、何組？　名前は？　俺は５組の紗雪幽。よろしくね～」
　そんなこんなで、幽のお喋りはまだまだ続く。

　キャンドルの完成を待つ時間を、新江天懸は持て余していた。
「暇だな……飯でも食うか」
　と、お城へと足を向けた天懸は、三宅ゆりの姿を見留めて「おっ」と声に喜色を乗せる。
「よぉ、三宅。一緒に飯行かね？　俺、おごるから」
　同じクラスメイトだしよー、と笑みを向けてみせれば、ゆりはきょとりと目を丸くした。
「飯行かね？　はいいけどさ、何？　おごってくれるの？　……あ」
「ん？」
「もしかして、ナンパ？　あたし、味のあるおっさんにしか興味がないんだよね」
　屈託のないゆりの言葉に、天懸は瞳を瞬かせたあとで「はあ」と大きなため息を吐く。
「って、何だ、年上が範囲かよ……まあ、いいや、行こうぜ。腹減ったから付き合えよ」
　そうして、２人はお城のレストランの中へと。
　テーブルに着いて注文を済ませたあとで、天懸はゆりへと声を投げた。
「年上好きならよ、俺達の担任とかいい感じじゃねーの？　さっき喋ってみたけどいい人だったぜ」
「うーん。そうなんだけど、先生、奥さんいるからさぁ」
「おー、知ってた」
「あはは、知ってて薦めたの？」
　ナンパは成功ならずだったが、クラスメイトとして他愛のない会話に興じる。
　そうだ、と、レモン水の入ったグラスを氷でからと鳴らしながら、天懸はゆりへと眼差しを遣った。
「今キャンドル作ってるから、それやるよ」
「マジ？　天懸、あんた、いい奴じゃん」
「おごるって言ってんだから、端からいい奴だろ」
「でも、ナンパだったんでしょ？　……あ、パフェ来た！」
　パフェの登場に瞳を輝かせるゆりを横目に、天懸はレモン水をぐいとあおった。