ラブ☆部活＆同好会～運動部の春～｜リアクション

ラブ☆部活＆同好会～運動部の春～

【相撲部（仮）―元ヤン少女はお年頃―】

　それは、ある日の放課後のこと。
　化神小次郎は相撲部の稽古場に向かって歩いていた。
（……熊センセー、今日はいるかな？）
　どきどきと胸を高鳴らせながら、小次郎が脳裏に浮かべるのは相撲部の顧問である熊センセーこと吉田熊吉の『まわし姿』である。
　そう。まわし姿である。大事なことなので二回言っておく。
（いやいや、違う。スケベな感情とかはこれっぽちもない！　ただ、あたしは相撲部の見学に行きたいだけなんだ！）
　ぶんぶん首を振りながら、小次郎は胸中で誰にでもなくそう言い訳する。
　しかし、いくら言い訳をしても、彼女の頭から熊吉の姿が離れないのもまた事実だった。
　そもそも、始まりは夢に白馬に乗った王子様の格好をした熊吉が出てきたのがいけなかった。
　さらにその夢を見た直後、相撲部の稽古場で熊吉に壁ドンされたのがもっといけない。
（あの時の光景が脳裏に張り付いて離れない。熊センセーのまわし姿がもう一度見たい！）
　というわけで、小次郎はあのときと同じように稽古場を覗き込んだ。
　その日は、あのときと違い、数少ない部員達がまわし姿で必死に稽古に励んでいた。
　まわし姿で、柱に平手を打ちこむ彼らの姿は、どこかあの日の出来事を彷彿とさせる。
「んん？　おお、誰かと思えば化神じゃないか？」
「……っ、く、熊センセー！？」
　と、そのとき、柱の陰からのっそり姿を見せた熊吉に、小次郎の心臓は大きく跳ね上がった。
（……お、落ち着け、あたし！　べ、別に、熊センセに会いに来たとか、全然そんなんじゃないんだからなっ！）
　心の中で叫びつつ、小次郎は熊吉の格好を見て心の中で狂喜乱舞する。そのときの熊吉の格好は、ご多分に漏れずまわし姿であったからだ。
（う、うへへへ……まわしだ……熊センセのＭＡ・ＷＡ・ＳＨＩだ☆　イエー！）
　思わず涎を垂らしそうになるが、そこはグッと堪える。
　と、そのとき。
「……どうした、化神？　顔が赤いぞ？　熱でもあるんじゃないか？」
「……っ！？！？」
　まわし姿の熊吉がずいっと身体を寄せてくるものだから、それこそ小次郎は口から心臓が飛び出しそうになる。
「……だ、だ、だ、大丈夫だぜ！　そ、それより今日は熊センセにお願いがあってきたんだっ！」
「お願い？」
　内心の動揺を悟らせまいと大げさな身振りで語る小次郎に、熊吉は眉を怪訝そうに寄せる。
「……そ、そう、お願いだよ！　あたしを相撲部のマネージャーにして欲しいんだ！」
「……マネージャー？　どうしてまた二年のこの時期に」
　熊吉はますます不思議そうに円らな瞳を瞬かせる。
（ああ……！　なんて、つぶら可愛い目なんだ……じゃなくて！）
　その場に萌え転がりそうになる己を懸命に抑え、小次郎は勢いで押し切ろうとする。
「あ、あたし、相撲部を応援したいんだ！　頼むよ、熊センセ！　あたし、やる気満々だからさ！　超働くよ、ほんと！」
「そ、そうか……！　お前、そこまで相撲のことをっ……！」
　その勢いは熊吉に通じた。この男、基本的に、情に厚く、情に脆いのである。
「じゃあ、早速、今日から頼むぞ、化神」
「……！　やった！　ありがとう、熊センセ！　あたし、頑張るよ！」
　小次郎は喜びのあまり熊吉の手をとってぶんぶんと握手をした。
　すると、それを遠巻きに見守っていた部員達からパチパチと拍手が起こり――
「って、こらぁ！　何をサボッとるかぁ！　このバカタコがっ！」
　熊吉の雷が、稽古場にズガーン！と落された。
　それは普通のＪＫなら裸足で逃げ出してもおかしくない恐ろしさであったが――、

（やった！　これで、熊センセのまわし姿が毎日見られる！　イエーーー！）

　そのときの小次郎は、そんなことなどまるで気にならないほどに、心が舞い上がっていたのであった。