ラブ☆部活＆同好会～運動部の春～｜リアクション

ラブ☆部活＆同好会～運動部の春～

【剣道部(4)―Epilogue ver剣道部―】

　そして、辛くも楽しい稽古が終われば、お楽しみのカレーづくりの時間だ。
「は～い。みんなでおいしいカレーをつくりましょうね～。わからないことがあったら、先生に訊いてくださ～い」
　剣道の指導のできない顧問の島岡雪乃はここぞとばかりに張りきっているように見えた。
「……大事なのは基本……大事なのは基本……」
　伊藤佳奈は、さっきまでの勇ましさが嘘のように、頼りない手つきで包丁を握っていた。
「……あの、伊藤先輩、俺がやりましょうか？　俺、姉よりは包丁扱うの上手いですし……」
　そんな佳奈の様子を、恐る恐ると響蒼留人が見つめて言う。
　彼の姉は包丁捌きが下手だったが、佳奈のそれは姉以上だった。
「……だ、大丈夫！　苦手だからこそ、克服しなきゃ！」
「は、はあ……。じゃあ俺は別の野菜切りますね……」
「二人ともお疲れ。テーブル拭いてきたよ。あとお皿出そうか……って、何、このニンジン！？」
　味見をするぐらいのつもりでやってきた刀は、目の前の歪なニンジンを見て、「助けて島岡先生！」と悲鳴を上げた。

　　　＊　＊　＊

　それでも、なんとか夕餉の支度は整った。
　みんなでテーブルを囲いながら、佳奈は幼い頃から剣道をやってきて辿り着いた一つの持論を語っていた。
「だから、ね。大事なのは、基本に忠実に正しい姿勢で正しく打つ事」
「基本、ですか」
　先輩の言葉に、蒼留人は真摯に耳を傾けている。
「うん。それが結局一番早く美しく打てるんだ。美しいって事は動きが理にかなってるって事だからね」
　そう言ってから、佳奈はスプーンをカレーの中に突っ込み、岩のように大きなニンジンに目を丸くした。
「……まあ、あたしの包丁捌きは姿勢も斬り方もめちゃくちゃだけどね。あはは」
　笑いながら、佳奈はそれを口に運ぶ。
「うん。やっぱり自分達で作ったカレーは美味いな」
　と、刀もカレーを口にかきこむ。刀と蒼留人が切った野菜は普通のサイズになっており、結果的に味もおいしいカレーができたことは幸いだった。
（世の中には姉さんよりも包丁が下手な女の人がいるんだな……）
　少し姉のことを思い出しつつ、蒼留人はすぐに頭からそれを払う。同級生達の目の前で姉の話題には触れたくない。それよりも、
「あ、俺、去年、先輩達がどんな活動してたのか聞きたいです！」
「……去年かぁ。そういえば、もうあたし達が入学してから丸一年間が過ぎてるんだよねー」
「そうだな。去年の今ごろは何してたっけ。去年は地獄のかかり稽古とかやったよな……」
　佳奈と刀が遠くを見るような目つきで在りし日の思い出を辿る。

　それから、しばらくはこれまでの活動の話が続いた。
　二・三年生には懐かしく、一年生には新しい話に、彼らは目を輝かせて過去の想い出や未来への展望を語り合った。
　そして、瞼が重くなるまで語り明かしたところで、男女別々の教室に移動して布団を敷き、さながら修学旅行のように、みんなで仲良くすやすやと同じ朝を迎えたのであった。