ラブ☆部活＆同好会～運動部の春～｜リアクション

ラブ☆部活＆同好会～運動部の春～

【陸上部(1)―部活とは青春の結晶である―】

　ある休日。
　寝子島高校のグラウンドに、浅井幸太の大きな声が響いている。
「みんな、陸上にとって大事なものは何だと思う？」
　寝子高の体育教師かつ陸上部の顧問の浅井の号令で、今年も陸上部の合宿が始まろうとしていた。
「まずは走ったり跳んだりすることが大好きなこと。そしてもう１つは――」
　去年とほぼ同じ台詞を繰りかえす浅井に、早くも多くの部員が辟易としている。
（あー、これは、また俺が先生の演説を止めないといけない空気か？）
　正也は、心の中で、溜息を混じりに呟く。
（正也ちゃん、出番だぜ）
　やはりというべきか、同じ三年生の宇佐見望月がすぐ左隣から肘で正也を小突いている。
（こういうときこそ副部長の出番だろ？　ほら、後輩達もお前を頼りにしてんぜ）
　さらに気がつくと右隣でやはり同じ三年生の冴木竜司が望月と同じように肘で正也の腹を小突きまわしてくる。
　正也は、覚悟を決めて一つ息を吐くと、「先生、あの……」と一歩前へ出る。
「……ん？　なんだ、桐野？　というか、前にもこんな展開あった気がするな」
「奇遇ですね、俺もですよ。……じゃなくて、先生の熱い気持ちはもう皆に充分伝わってますからそろそろ練習始めませんか？」
「……そ、そうか？　いや、だが、桐野達はそうかもしれないが、ここには大勢の新入生達が――」
　と、そこで望月と竜司が瞬時に互いに視線を交わし、後輩達に呼びかける。
「いやいや、みんなも浅井先生の熱い気持ちはちゃんと伝わってるよな？」
「むしろ、伝わり過ぎて、一刻も早く練習したくてうずうずしてるよな？」
　二人の意図は即座に後輩達にも伝わった。
　彼は二人の言葉に、真っ直ぐ浅井の顔を見つめ、力強く頷いて見せた。
「……そ、そうか。せっかく今回も二時間分の原稿を考えてきたのに……」
「……そ、それはこれからの指導で充分伝わりますよっ！　ほら、肉体言語とか、テレパシーとか、そんな感じでっ！」
「……そ、そうだな！」
　かなり強引だったが、ひとまず浅井は納得してくれたらしい。
「よし、じゃあ練習開始だ！　あ、今日は４月でいい天気だけど、熱中症の危険性は無いって言い切れねぇかんなー。小まめに水分取って練習しろよなー」
　と、望月が注意を促し、
「新入生にとって初めての合宿だけど……気負う必要はねェぜ！　とにかく楽しんだもの勝ちだ！　じゃ、浅井先生、お決まりのアレよろしく！」
　と、竜司が浅井に号令を求める。
「……あ、ああ！　それじゃあ、みんな円陣を組め！」
　幸太の声掛けで、陸上部の面々はグラウンドに大きな円陣を組む。

「それじゃあ、せーの――」

『――寝子高陸上部、ファイトー！！！』

　そして、彼らはそれぞれの種目のグループに別れて練習を開始した。