回転寿司いこっ！｜リアクション

回転寿司いこっ！

　――とある休日、お昼時（その２）

　マグロ、イカ、サーモン、ホタテ、鯛にふっくら玉子……。
　レーンを回っていくきらきらしいネタ達を前に桧垣万里は口元を緩めた。
「久々の回転寿司～。たくさん食べよ～っと」
　自炊が面倒臭すぎてため息が止まらない！　な状態だった万里。
　自宅でだらだらしながら「もうレトルトカレーでもいいかな」なんて思っていたのだが、
（キャンペーンのチラシを見つけた私、グッジョブよね。いい仕事したわ～）
　という具合で、出しっぱなしにしていたチラシが偶然発掘されたのだった。
　そうして、久々にお寿司食べたい！　と、ねこ寿司を訪れるに至ったのである。
（よーし、早速食べるわよ……と、行きたいところだけど……）
　万里は、レーンに手を伸ばすことなく、皿が緩やかに流れていくのを見送る。
　アナゴ、海老、タコ、アジ、エンガワに変わり種のサラダ軍艦……。
（……最初は、やっぱり白身かしら）
　けれど赤身のマグロも外せないし、かっぱ巻きや玉子のような魚以外のネタも捨て難い。
　そうこう考え、うんうんと悩んでいるうちに、
（ああ、お寿司がどんどん流れていく……ええい、もうこうなったら！）
　次に目についたお皿を取るしかない！　と万里は皿をＧＥＴする構えを取る。かくして、
「かにかま天と来たか……！」
　万里が手に取ったのは、ほこほこ揚げ立ての天ぷらが乗った変わり寿司。
　ちょちょいと醤油をつけて、はふっと口に運ぶ。
　本物のカニとは違うけれど優しい味と、ふわっとした食感。
　それらが、万里の口の中をあっという間に満たした。
「んっ、おいひい～。……でもやっぱり、定番ネタも外せないわよね」
　マグロの赤身はむっちりと味が濃く、大トロは口の中で蕩けるよう。
　脂が乗ったサーモンたるや回転寿司の鉄板だし、イカのねっとりとした甘さも堪らない。
　海苔の香りが食欲をそそる鉄火巻きも、ぱくぱくと行けてしまう。
「あぁ、美味しい～」
　湯呑みのお茶をすすって、万里はほうと息を吐く。
　と、その時、後方の席で笑い声が弾けた。
　明るい、楽しそうな声は、店内の空気を乱すものではない。
　むしろ好ましいような感じがして、万里はカウンターから顔だけで振り返った。
（ああ、思ってた以上に学生が多いのね。そうよね、一皿９０円だもの）
　うんうんと胸の内に頷きながら、万里はそっと辺りへと目を配る。そして、
（あれ？　あそこの席にいるのは……）
　と、その双眸が、知り合いの姿を思いがけず捉えて幾らか見開かれた。
（彰尋君ったら、同級生の子と一緒にきているのね。いいなあ青春ね）
　万里が見留めたのは、友人達と寿司を楽しむ鴻上彰尋。
　遠くからでも、隣に座る少女が何を言ったのか彼のはにかむような笑みが臨めて、
（これは、お姉さんニヨニヨしちゃうわ～）
　と、万里はあくまでも声は掛けないスタンスで、けれど目元と口元を笑みに緩めた。
「で、やっぱり！」
「〆は、ねこ寿司パフェ！」
　女の子達の元気な声の切れ端も耳に届いて、「パフェ？」と万里はメニュー表を見る。
（あ、ほんとだ、パフェがある。……え、安くない！？　ええっ、限定パフェもあるの！？）
　既に存分に寿司を味わった万里だけれど、メニュー表を握って暫し悩んでみたり。
　そんなこんなで、食事も楽しい時間も満喫し終えた万里は、会計ボタンをぽちりと押す。
（そういえば、くじ引きもやってるんだったわよね）
　せっかくだし引いてから帰ろうっと、と、万里は店員にチケットを手渡した。
（ボールペン当たるかな～っと♪　　……あれ、これ……）
　おめでとうございます！　と、満面の笑みで店員が言う。
「あ、当たった……？」
　そういう次第で、万里は金ぴかボールペンをお土産に、帰路に着くことになったのだった。