踏破せよ！　寝子島ダンジョンズ｜リアクション

踏破せよ！　寝子島ダンジョンズ

【げーむなダンジョン】

　プロゲーマーの世界とは、かくも厳しいものです。腕に自信アリなゲーマーなら一度は憧れるものの、その栄誉を体現できる真の猛者はほんのひと握り。食うか食われるか、弱肉強食のシビアな世界なのです。
　あるいはこのダンジョンは、その縮図とも言うべきものかもしれません。
「WINNER,Tamamo Saita！」
「ち、ちくしょうーーー」
　ゲーマー少年の叫びはギャラリーの歓声にかき消され、足元にぱかっと開いた落とし穴の底へと真っ逆さま！　落ちた先になにが待っているのかは、誰にも分かりません。
　けれど斉田珠喪にとって、それはさして興味のないことです。
「なに、勝てば良いのじゃからな」
　ピコハンで手のひらをピコッと打ち、珠喪は不敵に笑います。
「さすがлиса、第一回戦は相手に触れさせることもなく完全勝利だ！　さあ、扉を開けて先へ進んでくれ！　次のライバルがお前を待っているぜ！」
「ふむ……なるほどな。トーナメント式ということかの」
　ダンジョンとは言いつつ、そこは四角く広い構造の部屋で、一見ちょっとしたゲームセンターのようです。
　ただしゲーム筐体は、部屋の中心にひとつだけ。
　こんな部屋が、この先にいくつもあるのでしょう。勝者は先へ進み、敗者は罰ゲームを受けて退場するだけ……珠喪に伝えられたルールは、実にシンプルでした。
「ふっ。腕が鳴るのう？　『лиса』の実力、とくとご覧に入れようぞ」
　もちろん、珠喪はプロゲーマー。戦い、魅せ、そして勝つのみです。
　ひとつ目の部屋をクリアした珠喪は、次なる対戦相手のもとへと向かいます。

　勝負は必ず、１対１のタイマン形式。
　格闘ゲームやリズムゲーム、レースゲームなど直接相手と対戦するゲームはもちろん、アクションやシューティングでステージクリアの速さを競ったり、パズルでハイスコアを叩き出したり……勝負は対戦相手の希望するゲームで行われるようでして、そのジャンルはさまざまです。
「ま、わらわにはどれも同じこと。ほれ、これで１００連コンボ達成じゃ」
「う、ウソーーー！？　ハメでしょこれ卑怯よ卑怯汚いわよ正々堂々戦いなさ、あっちょっとなにするのよ、離しなさいよこらーーー」
　うぃんうぃんうぃん。クレーンゲームのクレーンみたいなものが天井から降りてきて敗者を引っつかみ、どこかへ運んでいってしまいました。負けた者に語る言葉など必要ないのです。
　珠喪は連戦連勝を続け、次々に部屋を制覇していきました。レトロなシューティングゲームでは１ドットの隙間へ自機をねじこみ華麗に弾幕を回避し、落ちモノパズルゲームでは相手に先んじて超連鎖を繋げてお邪魔ブロックの山を送り込み、レースゲームでは峠の一般道をドリフト走行で爆走しつつ、大ジャンプによるショートカットで周回差をつけ完全勝利！
「す、すげえ……！　人間ワザじゃねえ！」
「これがプロゲーマーってやつなのか……！？」
「лиса、マジぱねえ！」
　ギャラリーのそんな驚きや応援の声も心地よく、
「ふふん。ざっとこんなものじゃな」
　珠喪、快進撃！　その勢いは止まることを知りません。
　そして、ついに訪れたダンジョンの最深部。最後の部屋の扉を開くと、それまでクールな表情を崩すことのなかった珠喪の眉が、ぴくりと跳ね上がりました。
「ほほう……こんなところでお目にかかるとは。不思議なこともあるものよの」
「まったくだね。君とはぜひ戦ってみたかったから、願ったり叶ったりだよ」
　最終決戦の場で珠喪を待ち受けていたのは、ゲーマーなら知らない人はいないであろう、超有名プロゲーマーのあの人！
「Tamamo Saita VS Shougo Unyahara！　最高の盛り上がりを期待してるぜ、ふたりともー！」
　挑むジャンルはもちろん、１対１の対戦格闘ゲーム！
　筐体を挟んで腰かけながら、珠喪はかすかに高鳴る胸を押さえ、深呼吸。
「伝説のプロゲーマー、ウニャハラと決勝戦とはの。もちろん、負けるつもりはないが。勝利し、ダンジョンを制覇するのはわらわじゃ」
「こっちも手を抜くつもりはないよ。正々堂々、全力で、良い勝負をしようじゃないか」
「うむ！」
　激戦必至！　ギャラリーの盛り上がりは今まさに最高潮に達し、珠喪はラストバトルへと臨むのでした。

このページにイラストを設定する