【おたから、ゲットだぜ！】

「おらぁっ！！」
　曖浜 鴻の必殺羅針盤アタックが炸裂し、ぐらりとよろめいたキャプテン・スケルトン。
　すかさずサキリ・デイジーカッターの放った赤刃が胸骨を貫き、
「これで終わり。最後を決める大役は、君にゆずるよ」
「おっけー！　もらったぁ！！」
　トドメは新田 樹。警棒をじゃきんっと構えたら、横殴りに全力で振り抜き、ぱっかーん！
　頭蓋骨をホームランでかっ飛ばすと、キャプテン・スケルトンはがしゃがしゃくずれ落ち、部下のガイコツともども動かなくなりました。
「おーし！　お宝探索タイムだぜ」
　危険が去ると、鴻たちはさっそく、捨てられた海賊船へと踏み込みます。
　船はずいぶん長い間ここに放置されていたのか、あちこち床が抜けていて危険なもので、慎重に慎重に足を進めながら船体の奥深くへ。
　やがて大きくて仰々しい扉をぎぎぎっと開くと、
「おおっ、ここが宝物庫……って、ふたりともなにやってるんですか？」
　首を傾げた樹の前では、ひと足先にここを見つけたらしい服部 剛と神嶋 征一郎が、おたがい銃を突きつけにらみ合いの真っ最中です。
「お宝は俺のもんや。奪われるのは、お前のほうやで……『征一郎』」
「そうはさせねぇ。服部」
　剛の拳銃は隠し持っていたもののようで、銃口はぴたりと征一郎の眉間へ。征一郎の持つ銃もまた、狙いは剛の片目へブレることもなく定められています。
　仲間割れ？　お宝強奪……！？　樹がごくりとつばを飲み込み、サキリと鴻が身構える中。
　しばしピリピリとした時が流れ……やがて、
「なーんてな！　冗談や、じょーだん。宝はせーちゃんにやるわ。俺は楽しかったから、それでええねん」
「……ふん。本当に冗談のつもりか」
　問いかけた征一郎へ、剛はにやりと不敵な笑みを浮かべ、ぱちりと片目をつぶってみせました。
　ふたりのやりとりに、鴻は肩をすくめます。
「なんだ、もういいのか？　それじゃ、お宝分配といくか。さあて、男のロマンをくすぐるような値打ちモンがありゃいいんだが」
　加えて、これからもそりゃあいろんなことがあるはずの、寝子島のフツウを守るのに一役買ってくれるようななにかがあれば……なんて、彼らは胸躍らせながら宝物庫を物色し、それぞれにお気に入りのお宝をゲットすることができたのでした。

　　★お宝ゲット！
　　　・曖浜 鴻：海賊船長の望遠鏡（宝石が散りばめられていてゴージャス。遠くが良く見える！）
　　　・サキリ・デイジーカッター：海賊船長のカットラス（レプリカ）
　　　　（宝石が散りばめられていてゴージャス。斬れないので飾って楽しもう！）
　　　・新田 樹：海賊船長のフリントロック銃（レプリカ）
　　　　（宝石が散りばめられていてゴージャス。撃てないので飾って楽しもう！）
　　　・神嶋 征一郎：珊瑚のカメオ（海の女神の姿が彫り込まれている貴重な品！）
　　　・服部 剛：表裏一体のコイン（イカサマ用にもってこい！）



　入江 みつびがにっこり笑った拍子に、こぽんとこぼれでた泡が、海面へと向かって登っていきます。
「ママさんと会えてよかったねー、ネッシー♪」
　目の前には優雅に泳ぐ、フタバスズキリュウの親子。みつびの大活躍でママリュウは無事解放され、洞窟からの脱出を果たすことができました。
「もう捕まっちゃダメよー！　親子で仲良くねー、みつびちゃんとの約束よ☆」
　きゅきゅ、きゅるる！　嬉しそうに鳴いて、親子はじゃれあうようにしながら、深い海の底へと消えていきました。
　みつびの手のなかには、艶やかな虹色に輝く美しい貝殻がありました。

　　★お宝ゲット！
　　　・入江 みつび：オパール化した巻貝の化石（七色にきらきら光ってきれい！）



　桜庭 円は、後悔に深い深いため息をつきました。
「寄り道しすぎた……」
　サーベルタイガーのにゃーくんも、困ったようにきゅうんとそっぽを向いております。
「まさか魔王が一撃とは……」
　数多のサブクエストをこなしまくった円のレベルはとっくにカンストし、聖剣のひと振りで、魔王はあっけなく滅んでしまったのでした。ラストバトルの盛り上がりもなにもあったもんじゃない！
　手のひらの上では、魔王のバリアーを打ち砕くために使うはずだったオーブが、むなしく光り輝いています。
「んー。まぁいっか！」
　円はあっさり言うと、聖剣を放り出して伝説の鎧を脱ぎ散らかし、魔王の部屋のやたらめったらゴージャスでふかふかなベッドへダイブして、すやすやと眠りにつきました。

　　★お宝ゲット！
　　　・桜庭 円：まほうのオーブ（部屋に置いとくと、少しだけ運が良くなる……らしい？）



「やあ、いらっしゃい子どもたち。がっこうダンジョンは楽しんでもらえたかな？　ゴールしたきみたちには、ごほうびを用意してあるよ」
　校長室で出迎えてくれたのは、パブロ・ピカソみたいなシュールなタッチで描かれたおじさんの、しゃべる絵でした。
　彼らの良く知っている顔や声ではありませんでしたけれど、どうやらここの校長先生のようです。
「ああ、良かったぁ……！」
　絵がしゃべるのも少々奇妙ではありながら、ともかくここがゴールであるようです。時高 クレオは安心して、思わず素の顔でほうっと息を漏らしました。
「楽しかったけど、クレオやっぱり怖かったわ！」
「はは、そうだな。そして、これがお宝というわけか？」
　校長室にはしゃべる校長先生の絵だけではなく、いくつもの絵が飾られています。
　八神 修が手に取ったのは、子猫の絵でした。それもフツウの絵ではありません。にゃあにゃあ、みゃあ！　本物のように動く絵です。
　ごほうびとやらはいくつもあり、好きなものを持ち帰って良いとのこと。紗雪 幽は寺生まれのサガというものでしょうか、自然と取り上げたのはなんだかいわくありげな銀の指輪でした。内側にお経のようなものが刻まれていて、霊験あらたかなカンジです。
「これ、除霊グッズかなー？　いかにも効きそうッスよ、先輩もおひとつどうッスか？」
「うーん……いちおうもらっておこうかしら。またあんなのに追いかけられるのは、ちょっと遠慮したいし……」
　パワーストーン的なヤツでしょうか？　小さな宝石がいくつか散りばめられた腕輪を手首に巻いて、羽生 碧南も少し安堵したようです。
　と、
「「「うわ～～～っ！」」」
　どたばた、どたん！
　校長室へ飛び込んできたのは、子どもたち。リタ・カルネイロ、城ヶ崎 梨々子、菊地 まなの三人です。
「ゴールしたのだわー！　りりこたんけんたい、にんむたっせーなのだわ、あら？　梨々子ちゃん、どうしたのかしら？」
「り……リタさん……まなさん……これ以上、走ったら、私……死っ……死んでしまいますわっ……！」
「……ぉぅっ！（ちょっと怖かったけど、ゴールできたね！　リタちゃんと梨々子ちゃんのおかげだよ、ありがとう！）」
　息も絶え絶えな梨々子をリタとまなが横から支え、大きいお兄さんお姉さんたちへぺこりと会釈。
「やあ、がんばったね。きみたちには、特別なごほうびがあるよ。最新のおもちゃだよ」
　ピカソ風校長先生が示したほうを見て、子どもたちの顔はぱあっと輝きました。

　　★お宝ゲット！
　　　・時高 クレオ：動く白猫の絵（自分しか見てない時、本物みたいに動く！）
　　　・八神 修：動く黒猫の絵（自分しか見てない時、本物みたいに動く！）
　　　・紗雪 幽：厄除け指輪（除霊グッズの効果がちょっぴりパワーアップ！）
　　　・羽生 碧南：厄除けブレスレット（イヤーな霊が寄ってこない！　気がする！）
　　　・菊地 まな：カプセルギア『スコーチャー』（火炎放射器搭載、高熱で敵を消毒だ～！）
　　　・城ヶ崎 梨々子：カプセルギア『プレシャスガール』
　　　　（宝石が放つ光でバリアを展開し、敵の攻撃をブロック！）
　　　・リタ・カルネイロ：カプセルギア『カポエイラス』（リズムに乗って強烈キックを放つ！）



　気が付くと毒島 虹子は、森の中で紅茶を飲んでいました。
　殴り合いの末、最後に勝利したクマさんが宝箱を開けると、なかにはなにも入ってはいませんでした。
「ふふ……」
　あの絶望に歪んだ顔ときたら……！　虹子は愉快な気持ちで、ひびの入ったティーカップへ口をつけました。
「あれれ！　お嬢さん、こんなところでなにをしているんだい？」
「ぼくたち、これから宝探しにいくところなんだ！　よかったら、いっしょにいかないかい？」
　シロクマさんにゾウさんサイさん、タヌキさん。ぬいぐるみたちがやってきてそんなふうに言ったもので、虹子は思わず吹き出してしまいました。
「うふふ、ふ。素敵。もう一度あの顔が見られそうですわね？」

　　★お宝ゲット！
　　　・毒島 虹子：絶望のティーカップ（持ち主が次々に不幸な死を遂げてきたといういわくつき！）



「Yes！　やったぜ！」
　ぱちんと手を叩き、水守 流は歓喜の声を上げました。
「おーっ、ロボットが止まったぞ！」
　ぴたりと動きを止めたセキュリティロボットたちに、ライフルを構えた鳴神 師呉もガッツポーズです。
「やったなー流！　んで、お宝は？」
「そう焦るなって……ほれ」
　キーパッドをッターン！　とかっこよく叩くと、とたんにベートーベンの第九がどこからともなく流れ出し、封印されていた秘蔵のお宝画像データが、ぱあっとモニタ上に現れました。
「こ……この画像はーーー！？」
　にゃおーん！
　超絶的に愛らしい、膨大な量のにゃんこ写真データ集でした。
「「か、かわいいいいいい！！」」

　　★お宝ゲット！
　　　・鳴神 師呉：秘蔵のにゃんこ画像１ＴＢ分（やばい！　悶絶するほどかわいい！）
　　　・水守 流：秘蔵のにゃんこ画像１ＴＢ分（もうメロメロ、ずっと眺めていたい！）



　げーむダンジョンを制覇せし者、斉田 珠喪へ優勝カップが授与されます。
　手渡してくれるのはもちろん、格ゲー界のレジェンドことプロゲーマーのウニャハラです。
「まさかあそこで、ニャンリーの覇王百裂脚を全段パリィした上で反撃を叩き込まれるとはね。恐れ入ったよ」
「なに、紙一重であったわ。無論、次も負けるつもりはないがの」
「ああ、いずれまたリベンジさせてもらうよ」
　ギャラリーの興奮は冷めることなく、拍手と歓声が満ち満ちるなか、ふたりは固い握手をかわし、再戦を誓い合うのでした。

　　★お宝ゲット！
　　　・斉田 珠喪：第一回げーむダンジョン杯優勝カップ（やったね、優勝おめでとう！）



　花椿 涼太郎と本条 小萩がたどりついた部屋は、きらびやかな輝きに満ち満ちておりました。
　あたりを埋め尽くすのは、絵画や彫像、工芸品に宝飾品などなど、美しいモノをこれでもかと詰めこみ展示した、まさしく美の殿堂です。
　この世のすべてが集められたような部屋をぐるりと見回し、けれどふたりは不意に顔を見合わせ、肩をすくめます。
「なるほど、確かにこれらの品々は美しい……だが果たして、究極というほどだろうか？」
「ふむー。どれもステキですが、ちょっと物足りないですねー」
　一級品の素晴らしい芸術作品たちに囲まれながらも、ふたりの心が満たされることはありませんでした。
　確かに目を見張るような美しさではあるのです。それでも、ふたりはどこかで分かっていたのです。自分たちの求めているものは、これではないと……。
「おや？　あそこにもなにかありますよ」
　ダンジョンの最深部に置かれていた一番のお宝は、
「これは……鏡かい？」
　壁にかけられた、大きな大きな姿見でした。良く磨き上げられてピカピカの鏡面には、豪奢に着飾ったふたりがくっきりと映り込んでいます。
　そう。ふたりは気付きました。求めていたものは、こんなにも近くにあったのだということに。
「……はーーーっはっはっは！！　究極の美とはどうやら、僕たち自身のことだったようだね！！」
「涼太郎さんも小萩も両方映っているということは……究極の美の迷宮をもってしても、どちらにも決められなかったということですね！」
「そうだとも！　僕たちこそが！」
「小萩たちこそが！」
「「究極の美ッ！！」」
　ばばーーーん！
　ダンジョンへ、ふたりの笑い声がしばし響き渡りました。

　　★お宝ゲット！
　　　・花椿 涼太郎：究極の美のウォールミラー（涼太郎が覗き込めば、いつでも究極の美が堪能できる！）
　　　・本条 小萩：究極の美の手鏡（小萩が覗き込めば、いつでも究極の美が堪能できる！）









　こうして寝子島ダンジョンズの冒険は、ひとまずの終わりを告げました。
　けれど、鴻は再び船を駆り、大海原へと漕ぎ出します。その手には、一枚の羊皮紙がありました。
　それは海賊船長が懐に隠し持っていた、新たな宝の地図でした。
「寝子島にゃまだまだ、未知のダンジョンが眠っているに違いねぇ。フツウを守ろうと頑張ってる若者モンのためにも……そのお宝、根こそぎかっさらってやるぜ！」

　嗚呼、寝子島ダンジョンズ。
　冒険はまだまだ、終わらない！