心の翼、広げて｜リアクション

心の翼、広げて

「なんだここは？」
　新田亮は辺りを見回した。
　さっきまで、普通の世界でフツウの景色を見ていたはずなのに。
「見渡す限り廃墟ばかりじゃないか……」
　寝子高校舎は半分がた崩れていた。
　薄汚れた服装の生徒たちが歩いている。
　学校の外に出ても、町のいたるところで建物は崩れ、車は道路脇でタイヤがはずされ錆びついていた。

（こんな日が来るような気がしていた）
　何でも起きる寝子島。やがて様々な現象で荒廃するのではないかと、亮は考えていた。
　いや、恐れていたのだろう。
『19xx年。世界は核の炎に包まれた。
街は荒廃し、生活水準は大きく下がる。
治安は悪化し、終わりの見えない絶望が始まる』
　突然、どこかで聞いたような声がした。
「……なにこのナレーション。勘弁してくれよ」　
　声の主を探すも見つからず、亮の周囲には、荒廃した街並みと、ピリピリとした人々の空気。

　やがて、バットや木刀、チェーンなどを持った数人の男が亮に近づいてきた。
　いかにも人相が悪く、こちらをカモにする気満々の空気を漂わせている。
「兄ちゃん、金出しな」
「金がねえなら身ぐるみ置いてきな」
　周囲の人たちは見てみぬふりをして、そそくさとその場を離れていく。
　他人にかまっている余裕などないのだろう。
「早くしろ。ビビっちまって動けねえか？　アア？」
　チンピラどもはニヤニヤしながら距離を詰めてくる。
　童顔で背が低い亮を侮り、簡単に言うことを聞かせられるとなめてかかっているのだ。
「やれやれ、戦うしかないか」
　幸い相手は銃を持っていない。ろっこんがあれば対応できそうだ。
　亮は、大きく息を吸い込んだ。
（発動）
　亮の全身に力が漲った。
　次の瞬間、亮のパンチが先頭にいたモヒカンを襲った。
「ぐえっ」
　肉を撃つ音と手ごたえと共に、男は簡単に吹っ飛んだ。
　吹っ飛んだ仲間を見て、他の男たちが顔色を変える。
「野郎、調子に乗りやがって！」
　襲い掛かってきた木刀やチェーンを、亮は軽々と躱す。
「てめえ！」
　バキッ。
　背後から振り下ろされたバットは、避けきれず亮の肩に当たった。
　バットは折れて弾き飛ばされたが、亮の動きは鈍らない。
　ろっこん『鬼人の体（サード・フォース）』は、呼吸を止めている間、身体能力が３倍になる。
　肉体も頑丈になるのでこれくらいはなんということもない。
（遠慮する必要はなさそうだな）
「げっ」
「うがっ」
　亮は男共に次々と拳やキックを食らわせる。
「お、覚えてやがれ！」
　実に個性のないセリフを吐いて、チンピラ共は逃げ出して行った。

「やれやれ」
　ため息をつくと、亮は服についた埃を払った。
　周囲からの賞賛の視線を感じる。
　あの程度の敵を倒せばなんとかなるなら、ここで暮らすのは難しくなさそうだ。
「寝子島中がこんな感じなのか？」
　とりあえず人が集まるところで話を聞いて、この世界を探索してみようか。
　自分の身体一つで生きていく世界。
　殺伐とはしているが、亮はなんだか血が騒ぐのを感じていた。
　