心の翼、広げて｜リアクション

心の翼、広げて

「……あれぇ？　さっきまで教室にいたはずなのに、いつの間にかグラウンドにいるよぉ？」
　鈴原空は、小さい頃から身体が弱かった。
『ぼくも妹ぐらい元気に遊べたらなぁ』
　入退院を繰り返しあんまり外で遊べなかった空は、元気に外で遊ぶ妹の姿を眺めるばかりだった。
　最近ちょっとだけ丈夫になったけれど、モヤシで運動が大の苦手なのは高三の今も変わらない。
　丈夫になったのはもれいびになったおかげなのだが、空はろっこんに無自覚で、『最近何故だか調子がいいな』くらいにしか認識していない。

　周りでは体操着を着たクラスメイトたちが走っている。
　空もいつの間にか体操着姿で、一緒に走っているのだった。
「え、体育の授業？　マラソン？　ぼく、体育は参加できないはずなんだけどぉ……」
　やめたほうがいいのかなぁ、と思ったが。
（……あれれぇ？　なんだか身体が軽いよぉ）
　病弱にも関わらず「なんとかなるよ」が口癖で楽観的な空は、もう少し走ってみることにした。
　身体の軽さは、走っても消えなかった。息が切れることも、心臓が苦しくなることもない。
「どれだけ走っても大丈夫だぁ。いつもならすぐに疲れちゃうのに」
　クラスメイトの背中が近づいてくる。
　追いかけても苦しくなくて、並んで走った。
　周りのクラスメイトが、笑顔で声をかけてくれた。
「すごいな鈴原、やるじゃないか」
「元気になって良かったね、鈴原くん」
　雲の上を駆けているかのように足取りは軽く、体がずんずん前へ進んでいく。
「わぁい、楽しいなぁ。みんなと一緒のことができるって、すごく嬉しいなぁ」
　アホ毛を揺らし、青い瞳を輝かせて空はどこまでも走る。
　ずんずん、ずんずん、ぐんぐん、ぐんぐん。
「ありがとう。そうか、ぼくは元気になったんだぁ」
　心からの笑顔で、空は笑った。
（ずっと、ずっとうらやましかったんだぁ。妹も、みんなも。でももう、自分の力でどこまでもいけるね……）
　
「……あれ？」
　気が付けば空は、元の教室にいた。
　体の奥から湧きあがってくる力は、もう感じられなかった。
「なんだ、夢かぁ。不思議な夢だったなぁ」
　いくら最近調子がいいと言っても、さすがに現実離れしていた。
（でも、楽しかったな。夢じゃなくて、本当になればいいのに）
　……なんてねぇ、と空は思う。
　夢でも、もう一度見られたらいいなぁ。
（長い夢がいっぱい見られたら、それはもう、本当に近いんじゃないかなぁ）
　

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あとがき

担当マスター：天村花海
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ご参加ありがとうございました。
ろっこんや神魂の力でいろんな不思議な体験はできますけど、人が持つ想像力もまた大きな力を持っていると思います。
たとえ現実では起こりえないことであっても、心の翼は自由に私たちを遠くへ連れていってくれるのではないでしょうか。
皆さんのアクションを拝見して改めて実感しました。

それでは、またお会いできる機会を楽しみにしております。

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