心の翼、広げて｜リアクション

心の翼、広げて

　中学二年生の新田樹は、部屋のベッドでまどろんでいた。
「今朝、居間でゴキブリ見ちゃったんだよな～。私の部屋には出ないと良いんだけど……」
　熱いバトルが好きなお転婆少女の樹も、虫には弱い。
　ぼんやりと壁に目をやったとき、一匹のＧ（ゴキブリ）が現れた。
「やっぱり出たな！！　成敗してくれる！」
　スリッパを手に立ち向かう樹。
　敵には容赦しないスタンスの樹、Ｇに向ける慈悲などあろうはずもない。
　バシッ！
　一撃で仕留め、ほっとする樹。
「あー、始末するのも嫌だ……えっ？」
　しかし。
　なんと、二匹目、三匹目とどんどんＧが現れたではないか。
「な、なんなのこれ。どうなってるの！？」
　身の毛のよだつ光景に樹の声は震えた。
　一匹見たら三十匹いると思え、とは聞くけれど、普段Ｇは隠れていて、こんなに集団で現れたりはしないものではないのか。
「いやー！　む、虫はダメなの！！」
（退治……退治しなきゃ）
　冷静になろうと努める樹だが、目の前に信じられないものが現れた。
「二足歩行で王冠付けてる……王様？」
　だがそれは、どこからどう見てもＧなのだ。
　カサガザカサ……
　Ｇの王様は、何かを訴えるように音を立てる。
「えっ……仲間を倒されたことに怒ってるの？」
　なぜかＧの言葉がわかるような気がする。
「だ、だって……」
　混乱しているうちに、いつのまにか樹はゴキブリに囲まれていた。　
（な……なんとか交渉しないと……戦うのは嫌！）
　動揺しながらも、一生懸命対策を考える樹。
　この数のＧに一斉に襲い掛かられては耐えられない。
　仮に戦うとして、潰した死屍で埋まる自分の部屋も見たくない。
（なら、出ていってもらうしか）
「あの……ごめんなさい、仲間を倒してしまって悪かったわ、無駄に戦うより話し合いましょ」
　カサカサカサ。
　Ｇたちは怒りを表すように音を立てる。
「ここに住むのはやめてほしいの。もっといいところがあるわよ、港のほうとか……えっ、引っ越しが大変？」
　樹は頭を巡らす。
（そうだ、ろっこんだ。生き物の群れを移動させるのは無理？　なら箱入りなら）
「そんなこと言わないで……もっと汚くて住み心地がいい部屋があるわよ。ろっこんで今から送ってあげるわね」
　カサガサカサ……
「わかってくれてありがとう」
　樹はにっこりと笑い、ろっこん『箱庭（リトルガーデン）』を発動した。
　自身から５０ｍ以内の指定場所に瞬間移動させるろっこんである。
　まずは菓子の空き箱にＧたちを移動させる。
　一瞬兄の部屋に移動させて驚かせてやりたくなったが、さすがにやめた。
　なるべく自宅から遠い下水道へ移動させる。
「これで安心……」　

　そこで目が覚めた。
「夢だったの？　さすがにＧの王様とかないわよね」
　今度こそ安心して、樹は再び眠りに落ちた。

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