心の翼、広げて｜リアクション

心の翼、広げて

　八神修は、自宅の階段下に猫たちが集まっているのを見つけた。
（おやおや、議論中かな？）
　微笑ましい気分になった時、修は想像の世界に入り込んでいた。

「私のニボシがないにゃ！」
　突然女性の声が響く。
　見れば猫耳と尻尾がついた美人だ。
　サバトラ模様の服と声質から、修は彼女が飼い猫のパトラであることに気づいた。
「あの黄金のニボシにゃ？」
「たからものだったのに、パトラかわいそうにゃ」
「誰がそんにゃひどいことを」
　口々に言う青年たちにも猫耳と尻尾がついていて、服の模様を見ればやはり修の飼っているオス猫たちだとわかった。
「安心しにゃ、俺が犯猫をつかまえてやるにゃ」
　言うなり勇敢そうな黒服がび出していこうとする。
「あっ、ブラックばかりいいとこ見せようとしてずるい！　僕がつかまえるんだ！」
　他の雄たちも飛び出そうとしたとき。
「……待て、ここは全員協力して捜査すべきにゃ」
　考え深そうな灰色の服の青年が止める。
　だが皆は聞く耳を持たなかった。
「相談するより手分けして探したほうが早いニャ」
　三毛模様のマーブルが言うと、みんなは尻尾をひょこひょこさせた。
「そうニャそうニャ」
「こうしてる間にもどろぼうが遠くへ逃げちゃうかもにゃ」
（正論は感情論を説得し得ない良い事例だな）
　修はブルーに同情したが。
「おい、そこのお前！　どこから来た！」
　高みの見物のつもりが、気が付けば修はブラックに睨まれていた。
　いつのまにか修も猫っぽいパーカーを着て、場の一員になっていたのだった。
「俺は修だ。お前たちの飼い主だよ」
「何？　そんなはずはない」
　どうやらいつものように認識してもらえないらしい。
「余所者め。怪しいぞ」
「まあまあ、まずは現場を見て他の動物たちにも聞き込みしよう」
　ブルーが言い、結局他の猫たちも代案はなく現場に向かった。
　修もついていった（というより逃げないようパーカーを引っ張られて連れて行かれた）。
　現場の地下のトレーニング室の棚上には怪しいところはなかった。
　犬族やうさぎ、ハムスターも擬人化していた。
「知らないワン」
「しらないわ」
「しらないのだー」　　
　
「ひゃああー！」
　その時、悲鳴が上がった。
「なんだ？」
　駆けつけてみると、現場は一面の白い嵐の渦中だった！
　テオテオが箱からティッシュを次々ぽーいぽーい。
「わーい！」
　歓喜の叫びが上がり、皆、白いふわふわに飛びついていく……
「猫だなあ……」
　事件どうしたよ、と思いながら修は一面のティッシュと飛びつく猫たちを見上げていた。

「食料収納庫にニボシ有るにゃ！」
　そこへタイガが颯爽と現れた。
「探検隊結成ニャ！」
「私に多めに分けなさいニャ」
　パトラが言う。
　その時修は、テオテオの口元に光るものがあることに気づいた。
　あれは、ニボシのかけら？
（テオテオ、そっちもおまえの犯行か……）　

「……ん？」
　我に返ると、元の姿のカーキーがいた。　
「夢か」
　しかし、居間には本当にティッシュが散乱していた。
「まさか！」
　食料収納庫の扉を確認に走る修の目に猫たちの姿が映った……

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