朝日に消える幽霊｜リアクション

朝日に消える幽霊

●守ってくれた人

　砕かれた岩のかけらのような大きさ。
　ハマグリに近い形状であることから物の怪の類が石化したものだろうと推測しつつ、三宅葉月は石の周りを調べる。
　石の伝承で葉月が真っ先に思いついたのは、鳥羽天皇の寵姫で妖狐の化身、玉藻前が殺されて石になったという殺生石だった。
　殺生石は玄翁和尚により打ち砕かれ、欠片は多くの地に飛び散ったと伝えられるので寝子島にあったとしても不思議ではない。
　有毒火山ガスが噴出しているので「命を奪う殺生の石」として知られているが、蜃気石は無害で、幻を見せるだけの力しかない。

　調べている最中、誰かの気配を背後から感じたので振り返る。
「……お……おじい……さま……？」
　息を呑んで見た人物は、15歳の秋に亡くなった祖父だった。
　幼い頃に様々なことを教えてくれ、眠っていた絵の才能を発掘してくれた人。
　最大の理解者であり、才能を愛してくれた穏やかな人。
　芸術の才に恵まれた娘を許容できず、才能を手折ろうとする父の悪意から守ってくれた人。
　全身全霊で自分を守ってくれた優しかった祖父が、今、目の前にいる。

　その時、何もかもが静止し、声が出なくなった。声の代わりに、双眸から涙が溢れ出す。
　祖父は優しく接してくれた時と同じように、葉月と良く似た目元に優しい皺を刻み、穏やかな笑みを浮かべている。
　おじいさま。その一言も発することもできない。
　父の妨害が一番苛烈な一年になるだろうが、祖父が守ってくれたものを失うつもりはないという決意を伝えることもできない。

「おじいさま……」
　ようやく声を発することができた頃には、既に夜が明けていた。

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