朝日に消える幽霊｜リアクション

朝日に消える幽霊

●石の話

「こういうのには伝説とかあるかもねー。詳しそうな人を探してみよう」
　八神修が修復道具を取りに行っている間、響タルトは石の話を知っている人を探すことに。
　とはいえ、どこにいるのかわからない。
　困っていると、背後から「お困りのようだね」と声をかけられた。
　振り向くと、そこには陰陽師の衣装たる狩衣、青い目、白い髪の男性が笑みを浮かべていた。
「驚かせてごめんね。僕は薄羽白露、陰陽師だよ」
　陰陽師と聞き、タルトは目を輝かせた。
「うわあ、本物の陰陽師さんなんだね！　服装、スケッチさせてもらってもいいですか？」
「興味あるのかい？　いいよ」
　スケッチブックと鉛筆を取り出すと、タルトは白露の衣装をじっくり見ながら、細部まで描き始めた。

　描き終えてお礼を言ったタルトに、白露は困っていることがあったら相談に乗ると言った。
「九夜山に出る幽霊のこと調べているんです。出る場所に大きな石があるんですけど、それが幽霊と関係あるのかなと思って」
　何か知りませんか？　と白露に尋ねると、石は実際に見たが話は知らないという答えが。
　スケッチのお礼に、と白露は持ち歩いている鞄から占いの道具を取り出して占うと『寺に尋ね人あり』という結果が。
「さっそく行ってみます」
「僕も行くよ。陰陽師として興味あるし、面白い話が聞けるかもしれないしね」

　何軒も訪れては話を聞いたが、そんな石があるのか、知らないと空振り。
　ふたりは歩き回って疲れたので、立ち寄ったとある古寺の石段に腰かけて休憩。
「薄羽さん、付き合ってくれてありがとう。後はひとりで探します」
　別れようとした時、寺の本堂に来たこの寺の住職に出会った。
　九夜山に出る幽霊の場所にある石のこと知りませんか？　と尋ねると、何かを思い出している仕草を。
　立ち話もなんなので、と住職に案内され寺の本堂へ。

　蜃（しん）という妖怪をご存知かと尋ねられたが、タルトは何？　と首をかしげ、白露は、あれだねとピンときた。
　蜃は蜃気楼を作り出すと言われる巨大なハマグリ、あるいは竜という説がある伝説の生物だ。
　蜃気楼は、蜃が気を吐いて楼閣を出現させると考えられたことが由来とされている。
「その蜃と幽霊が、どう関係しているんですか？」
　タルトの質問に、住職は蜃が吐く息が見せた幻ではないかと答えた。
　蜃気楼のようなものを見せる妖怪の仕業なら、夜中に幽霊のようなものを見せ、朝方に妖力が尽き消えてしまうことだろう。
「気を吐いて楼閣を出すというけど、幽霊を出せるのかな？」
「妖怪なら、幽霊を出すこともできると思うなー」
　タルトの意見に成程ね、納得する白露。
　昔、寝子島にも蜃がいて海中から楼閣を出現させていたが、いつしか人間が見たいものを出現させる力に変化したのだとか。
　妖力が衰えてしまった蜃は、いつしか陸に打ち上げられ次第に岩になってしまったと昔話も。
　どのような経緯であの場所に移動したかは定かではないが、石は『蜃気石（しんきせき）』と名付けられた。

　住職の昔話は、石の調査に大いに役立った。
「石のお話、教えてくれてありがとうございました」
　八神くんにこのこと教えないと、とタルトはスケッチブックに話を事細かく記した。

このページにイラストを設定する