pain　夢の中で｜リアクション

pain　夢の中で

【そして２人の幸せな夢】

　何かが腕の中で動いたような気がして、コル・ティグリスはベッドの中で薄く目を開けた。ぼんやりとしたまま視界を移せば灰色のもさりとした塊が目に飛び込んでくる。
「う……ん」
　微かな声と共に見慣れたティクス・ソルの顔がこちらに向いた。
（俺はようやく毒が体から抜けて……）
　まだこれは夢なのか？　ここはどこだ？　夢と現を漂いながらも、コルはそっとティクスの体に腕を回した。
　懐かしい夢を見たぞ、ティクス。もしかしたらこれも夢かもしれないけど。
　無防備に寝息をたてるティクスにコルは鼻先をこすりつけた。お前が飯を作れなんて言うから腹が減ったじゃないか。激痛を我慢してまでお前に会ったんだから、ちょっとは責任を取って貰うぞ。
　コルは小さく口を開けると、目の前のティクスを甘噛みし始めた。とっておきのご馳走のように、優しく、何度も。

　ふわりとした匂い、柔らかい肉、蕩けるような甘い味。
　夜は長い。最高の食事をじっくり味わおう……何てったって、夢だからな。

　コルの寝床に潜り込んだティクスは、もう哀しい夢は見ていなかった。代わりに見たのはいつぞやの酒盛りの夢。コルに嫌というほどまた噛まれたのだが……不思議と痛くはなかった。なぜだろう、ふわふわと温かく、噛まれる度に安心する。ティクスはコルの腕の中で小さく笑った。

　―――俺は、随分幸せな悪夢を見るようになったもんだ。