ユメユメ事変　害魂使い｜リアクション

ユメユメ事変　害魂使い

「フツウが破壊されれば力を増す……と」
　知的でどこか狡猾そうな顔をした男、龍岩。
　彼は寝子島のアウトレットモールへとやってきていた。
　龍岩の能力は幻覚を植え付けることだが、対象者以外には効果が出ないため大規模なフシギハザードを起こすことには向いていなかった。
　そのため。
「すみません、こっちを見て貰えませんか」
　道行く人に声をかけては強烈な幻覚を植え付け、少しずつ周囲のフツウを破壊するという手に出ていた。

「うわわ、思ったよりえげつない方法できましたね……」
　物陰から様子を見ていた椿美咲紀は、用意していたサングラスをかけて視線を誤魔化すとモールの奥へと走り始めた。
「サキリさん、準備はいいですか」
　スマホを耳に当てて声をかける。
　すると……。

「いや、あまり良くないな……」
　サキリ・デイジーカッターはスモークタイプの発煙筒を沢山詰めた革の鞄を抱え、モールの中を移動していた。
　自分の顔を知っているかもしれない龍岩への対策としてマスクをし、髪の長いウィッグを被って人相やシルエットや人相を誤魔化して……である。
　休日ということもあってモールには人が大勢いた。
　現代日本の特徴として、火災などの事故が発生した際それが小規模であれば影響のない範囲まで下がって遠巻きに様子を見守る傾向がある。
　モールに大きな実害を出さずに、かつ自然に人々を遠ざけるには限界があるということだ。
　対して龍岩は無差別に幻覚症状を植え付けて回り、フツウの破壊を推し進めている。
　このまま人々を避難させても、龍岩が場所とタイミングを変えて一緒に避難してしまうだろう。
　龍岩の狙いは自分たちろっこん使いであることは間違いないが、わざと人の多い場所を狙って襲撃するという前提がある以上、罠を張った待ち伏せ作戦は空振りしやすいのだ。
「作戦変更。いい？」

　サキリの指示を聞いた美咲紀は、意を決して伸縮式ロッドを手に取った。
　といっても、ポケットにいれたまま展開はしない。わざと龍岩の視界に入るように動くと、そのままモール二階中央にあるイベントスペースめがけて走り出した。
　こちらを発見した龍岩はそれを追いかけて走る。
　龍岩の能力は発動さえすればほぼ確定で倒せるが、逆に発動できなければ無力なものだ。
　人混みの中を走る美咲紀。ちらりと振り返ると、龍岩が必死の形相で追いかけてくるのがわかった。
　目が合えば終わりだ。できるだけ視線を下げつつ、美咲紀は走った。
　今日は幸いにもイベントスペースは使われていない。
　係の人ごめんなさいと呟いて、美咲紀は立ち入り禁止ロープの上を飛び越えた。

「もう逃げられませんよ」
「それは……こっちのせりふです！」
　ロッドを展開し、くるりと振り返る美咲紀。
　格闘になっても目さえ合わせれば勝てるという自信からか、龍岩はそれに応じるように身構えた。
　格闘。それは相手の出方への対応がものをいう。相手の目を見て動ければそれだけ強い。龍岩はその点一方的に動ける……筈だったが、美咲紀がサングラスをしていたおかげでその視線を隠すことができた。
「えいっ！」
　ロッドを強く振り込む美咲紀。
　対して龍岩は美咲紀の腕を掴み、一本背負いを仕掛けた。
　地面に背中から叩き付けられる美咲紀。
　腕を引いてサングラスを取り払い、龍岩は勝ち誇ったように笑った。
「私の勝ちです。残念でしたね」
「それもこっちのせりふ……ですよ！」
　幻覚を植え付けられる美咲紀。
　と同時に、モールの火災報知器がはげしく鳴り響いた。
　女子トイレから煙が立ちこめ、報知器がそれを検知したのだ。
　モール職員は慌ただしく動き、訪れていた客たちも逃げ出していく。
　あまりに良すぎるタイミングに、龍岩はある可能性に気がついた。
「あなた、まさか味方が――」
　と、そこまでである。
　背後に突如瞬間移動してきたサキリが、龍岩の首筋に改造スタンガンを押し当てた。
　ショックによって気絶する龍岩。
「僕達もお前達害魂使いも。所詮は借り物の力で一般人より少し強くなった程度の存在でしかないんだよ」

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