Midnight is mine｜リアクション

Midnight is mine

■真夜中のチャンネル
　１０年ほど前のこと。真夜中に誰かの声を聞きたくなったら、ラジオチューナーのダイヤルを回したものである。
　檜扇舞華にだってそんな経験はあったし、場合によっては深く聞き入ることもあった。
　しかしこの現代。
　声は、聞いてばかりではない。

　眠れぬ夜は寂しいものだ。
　いつも通りにテレビゲームをして、録画した映像も取れ高充分。いい絵が沢山とれたのでよっしゃ寝るかとお布団にダイブしたにもかかわらず……いや、だからだろうか？
「テンションが落ちない。落ちないですねえ、まるで」
　まるで得点待ちのフィギュアスケーターである。
　なんだっけあの場所の名前。デモンメイクライ？　ちがう、たしかギブアンドテイクみたいな名前だったはず……。
「ええい、まろどっこしい！」
　舞華は布団をはねのけ、部屋のパソコンを立ち上げた。
　あと、まろどっこしいじゃなくてまどろっこしい！

　ネットで『フィギュアスケートで得点待ちしてるところ』と検索するとスッと出てきた。キスアンドクライというらしい。ふーん、と思ってそこで終わるおはなしである。
　こんなことのためにＰＣの電源ボタンを押して、ちょっぴり重たい起動作業をＰＣちゃんにさせたのか。そう思うと、もう少しいじってもいいような気がしてきた。
　動画編集を今からしちゃって、ついでに音楽でも……いやいやここは……。
「よし、やりますか」
　舞華は壁にかけてあったメイド服のハンガーをひっつかんだ。

「はいはいみなさんこんにちわー。まだ起きてる人いますかー」
　カメラの前でぐーぱーしてから、舞華は編集画面を立ち上げた。
「ちょっと眠れないので、不定期生放送しますよー。寝るための作業なので、眠くなったらおしまいです。まったりいきましょう」
　ＩＴ革命という死語がございまするが、実際革命的なのは情報伝達の速度でございまして、かつては一方的にラジオ電波をひろうだけだった子供たちは、インターネットに自らの映像をリアルタイムに配信しては交流をはかっているのでございます。
　舞華は編集作業を進めながら、常連やたまたま張り付いていた視聴者のコメントを受け取っていた。
「最近はＳＮＳの反応が気になって眠れないって人が増えてるそうですね。なんとなく分かりますよ。スマホがあればお布団に居ながらにして大抵の情報が拾えちゃいますからね。不眠症の典型的なパターンは、布団で睡眠以外の行動をしすぎることなんだそうで――」
　喋って流して作業する。
　それだけで人間は疲労するもののようで、舞華のまぶたが徐々に重たくなってきた。
　ここまでくれば充分だ。好きなときに配信して好きなときに辞めるのが舞華の流儀。へんに引き延ばすことはなく……。
「では、眠くなったのでこのへんで失礼。おやすみなさーい」
　次回の配信は、未定である。