Midnight is mine｜リアクション

Midnight is mine

■明日は今日と同じ日か
　三折部朝衣という人間について、語らねばなるまい。
　１９歳。寝子高卒。町役場勤務。性格は明るくて真面目。という部分以外の、『彼女』について。

　日常は誰にも等しく訪れる。朝衣にも当然、訪れた。
　一週間のスケジュール表はびっしりと矢印と小さな文字に埋まり、月別年別のカレンダーも同じありさまだ。唯一、間近に迫ったゴールデンウィークだけがぽっかりと空いていた。
　手帳を閉じてバスの停留ボタンを押す。
　ブザーの音を聞きながら、鞄に手帳をしまう。
　停車し、空圧ポンプの音と共に開く扉。明日の仕事を頭に思い描きながら、朝衣はバスを降りていく。
　夜の闇は、もうそこまで来ていた。

　家に帰ってから夜眠るまで。
　人によってスタイルは違えど、こと朝衣に関しては均一であった。
　決まった時間に入浴し、決まったバランスで食事をとり、決まった時間に眠る。
　決まったサイクルの中で暮らすというのは、決まったサイクルの中で働く人間にとっては最適なスタイルだ。
　人当たりが良く几帳面な朝衣にとって、それは天職のようなものだったが、今日は少しばかり違った。サイクルがはまらないのだ。
　まるで自転車のチェーンがどこかでひっかかり、外れそうになっているように。
　歯車がかけている。
　それは朝衣という人間にとって、とても許しがたいことである。
　具体的には。
「ねむれない」

　睡眠ができない。
　人間である以前に生物としてゆゆしき事態である。
　疲労が蓄積していればよく眠れるという。たとえばバタバタと仕事におわれていた時などは眠ること自体を意識しなかった。身体が緊張からほどけた途端に眠りは自動的にやってきたし、むしろ目覚めることを考えねばならなかったほどだ。
　バランス。緩急。勢い。言い方はともかくとして、朝衣は何かが足らず、眠ることを意識しなければならなかった。
　眠くなるまで待ってもいいが、睡眠不足はよろしくない。身体にも生活にも、あらゆるものを削ってしまう。
　しかし焦ったところで眠くなるわけでもない。部屋の中をうろうろとするも、睡眠という命題が重くなるばかりである。
　ならば。
「ここは、思い切ってみるか」
　ぽんと手を打ったらもう早い。ジャージに着替えてキーホルダーを手にとって、夜の町へと飛び出した。

　ペダルをこぐ。
　風をきって進む。
　どこか遠くでまばらに走る車の音と、まばらについた町明かり。
　ただでさえ見慣れない夜の光景を、早回しで流していく。
　その景色が、どこか朝衣の心を刺激した。
　決まったサイクルが外れかけたときに与える、すこしだけの刺激。
　一通り夜の空気を浴びたあとで、朝衣はようやくにして自宅へと戻ってきた。
　不思議なもので、家に戻ると既にとっくりと眠気が沸いてきた。
　朝衣は目覚まし時計のアラームを確認してから、靴を脱いだ。

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