欠けた世界と欠けたココロ｜リアクション

欠けた世界と欠けたココロ

　　　７

「まったく、無茶をして！」
　美咲紀は怒りながらも花を手に、舞った。
　見る見るうちに、修のどす黒い部分が消えていく。
「助かった。ありがとう」
「もう、こんな無茶しないでください！」
「分かってるよ」
　美咲紀が怒っているのは、心配ゆえだ。だから修も、素直に謝った。が、無茶をしないという約束はしかねる。
「美咲紀ちゃん！？」
　素っ頓狂な声が上がった。――光だ。帰ってきたのだ。
　やばい、と修は思った。予定では、雲母に玉を吐き出させてから、光に会うつもりだったのだ。
「たっくん知らない！？」
「……ちょっと出かけた、かな？」
　美咲紀は光を怒らせないよう、「逃げた」とは言わず、語尾を誤魔化して首を傾げた。
「どこへ！？」
「さあ……」
　それは正直、分からない。
「帰る方法を探しに行ったんだよ」
　修が付け加える。「いつまでも出してくれないから埒が明かないし、自力でさ」
「なーんだ。それなら、翡翠に頼めばいいじゃん」
　あっけらかんと言ったのは、柘榴だ。
「聞いてくれるかは分かんねえけど」
「翡翠なら、僕たちを戻せるってこと？」
　ロベルトが尋ねた。
「そっ。俺らがこっちに戻ってきた玉は、あいつが作ったからさ。ヴァルキリーを何人がぶっ殺して、そのエネルギーを使ったとか何とか言ってたかな。まだこっち来るエネルギーは残ってるらしいから、変なのも来てるけど」
「変とは何だよ」
　ロベルトの後ろに、縛られた拓哉が立っていた。
「帰ってくる途中に声かけられてさ」
　ロベルトが付け加える。
「何でいきなり縛るわけ？　あんたら、頭に血が上ってない？　俺は敵でも味方でもないって言ったろ。味方じゃなきゃ敵って、おかしいだろ。まずは話し合うべき」
　拓哉は頬を膨らませた。
「殴り合いの喧嘩は最終手段。話しようって。その前に食い物ない？」
「食べ物はないんですよね……これどうぞ」
　美咲紀が縛られている拓哉の手に花を持たせた。
「気が進みませんが、くしゃっとしてください」
　よく分からないままに、拓哉は花を潰した。とたん、
「え？　何これ？」
　首を傾げる。
「空腹感がなくなるでしょう？　満足感はないけど。ここは、そういう世界らしいです」
「それおかしくない？　というか、つまんなくない？　美味いもん食いたくない？　ラーメンとかハンバーガーとかお好み焼きとか」
「思う思う」
　盛大に頷いたのは、柘榴だった。
「……翡翠に頼んで、そっちの世界と行ったり来たり出来るようにしてもらおうか」
　柘榴は、かなり真剣に考え込んでいる。
　そうなればなったで問題がありそうだが、と修は思った。何しろ、何でも燃やしたり壊したりする連中である。
　ふと光の肩を見た美咲紀が青ざめた。
「光くん！　それどうしたんですか！？」
「怪我した。へーき」
「平気じゃないです！」
　美咲紀は花を持って、再び舞った。光の傷がたちまち癒える。
「便利だなあ」
　柘榴がそれを見ながら、感心する。
「あんた、俺らの味方しない？　あんたがいれば、俺ら完全無敵じゃね？」
「それは出来ません」
　花を足蹴にし、燃やすような人たちと仲良くは出来ない。美咲紀はきっぱりと断った。

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