欠けた世界と欠けたココロ｜リアクション

欠けた世界と欠けたココロ

　　　６

　樹と悠斗は、花畑に転がっていた。そこへリリーがやってくる。
「楽になったか？」
「おかげさまで」
　樹はうーんと手足を伸ばして答えた。
「まさか琥珀に手傷を負わすとはな。驚いた」
「危うくやられちゃうところだったけどね。ね、他の連中の能力も教えてもらえる？　次に戦うときのために」
　リリーも座り、うん、と頷いた。
「琥珀は物を爆発させる。翡翠は氷だ。奴の作る氷の柱は何でも貫くし、盾は丈夫だ。あいつらの本拠地も、翡翠が作ったらしい」
「翡翠が死ねば、本拠地はなくなるのか？」
と遥斗。
「どうだろうな。残るかもしれない」
「他は？」
「柘榴は知っての通り炎だ。藍玉は風を起こす。奴の風でどれだけの花が切られたか分からない。瑪瑙は雷を操る。雲一つないのにだ。雲母は」
と、そこでリリーは顔を歪めた。
「……毒だ。奴に掴まれると、そこから毒が全身に回って死ぬ。奴らの中で最もえげつない技を使う」
　何人かの仲間がそれで死んだ、とリリーは言った。
「幸いと言っていいか分からないが、あいつは滅多に出てこない。それに直接触られなければ問題ない。姿が見えなければ、警戒する必要もない。やはり最大の問題は琥珀だ。今は子供の姿だが、大人に戻れば、指先一つで何でも破壊できるようになる。アイリス様も、その身を犠牲にようやく倒した――はずだった」
「倒した、はず？　アイリス様って？」
　樹が首を傾げる。
「そうか、新田は知らなかったか」
　女性の相手は苦手だが、リリーたちといることで少しは慣れたのか、遥斗は多少緊張しながらも、普通に話せていた。
「アイリスというのは、ここのリーダーだ。琥珀と相打ちで倒れ、その際に起きた何かよく分からないものに巻き込まれて、琥珀は寝子島に来たんだ」
　リリーは頷いた。
「逃すまいと追った私も寝子島へ。そこで子供になった奴に会った。その後、柘榴が迎えに来て、お前たちがここにいる」
「その、アイリス様はどうしたの？」
「分からない」
　リリーはかぶりを振った。「寝子島にいるかもしれないし、他の世界にいるかもしれない。お前たちが帰った後、もしそれらしき人を見かけたら、気にかけてくれないか？」
「どういう人？」
「品のある、美しいお方だ。歩いているだけで見惚れてしまう……」
　うっとりと語るリリーの目を見て、これは少し、差し引いて考えるべきかな、と樹は思った。心酔しきっているリリーには完璧に見えても、他人からはそれほどでもない、というのはよくあることだ。
「……お前たちの世界はいいな」
「そう？」
　唐突な言葉に、樹はきょとんとなった。
　悪いとは思わないが、そこまで素晴らしいかは樹には分からない。
　ただし、食事に関しては圧倒的に自分たちの世界の方がいい、と遥斗は言った。
「それだ。いや、それだけじゃないが、――これは、ない物ねだりかもしれないな。だが、もしお前たちの世界と一つになれたら……せめて行き来できたら……」
　そこまで言って、リリーは苦笑した。
「その前に琥珀たちを何とかしなければならないが」
　自然を壊さずにいられない琥珀たちを放っておくことは出来ない。だが、もしそれが叶うなら――とリリーは願わずにいられなかった。

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