欠けた世界と欠けたココロ｜リアクション

欠けた世界と欠けたココロ

　　　２

　その間に亮は、翡翠の身体検査を済ませていた。武器の類は一切持っていないようだが、安心は出来ない。
　翡翠の服を脱がし、両手両足首を縛る。下着は女性もいるので、そのままにした。更に肘から先を、胴体と一緒に縛った後、すぐ近くにあった枯れ木に縛り付けた。この時に使ったのは、亮の服だ。
　そこまですませたところで、武道と莉鳥が戻ってきた。ほぼ同時に翡翠が目を覚ます。
　一体、何が起きているのか翡翠には分からないようだった。雅樹が落ちてきて気絶したとは言わない方がいいだろう、と武道は思った。あまりに間抜けすぎる。
「お話しーましょ」
　武道はにこにこと話しかけた。
「話だと？」
　ぎろりと翡翠は睨む。
「わー怖い。縛ったのは申し訳ないけど、変な力使われたら困るしー。質問に答えてくれたら、解放するよ」
　半分本当で、半分は嘘だ。味方になってくれればいいと武道は考えていた。
「雲母（きらら）さんのことを教えてほしいんだけどね」
「雲母？」
　翡翠の眉が怪訝そうに寄る。
「俺たちを殺そうとするのは分かるんだ、うん。でも巧くん……知ってるよね？　ひか――琥珀さんのお達しがあった上で、彼を傷つけようとするのはおかしくないかなあ？」
　翡翠の目が、離れた場所にいる巧に向けられた。巧と雅樹は何やら話をしている。多分、くだらないことだろう。その方がいいと武道は思った。一時でも、不安を忘れられる。
「彼の手首がどす黒く変化している。あれは雲母さんの仕業でしょ？　どういう能力？」
「……毒だ。雲母は、直に触れた相手をじわじわ殺す能力に長けている」
　存外素直に雲母は答えた。殺傷能力に特化しているという武道の考えは当たっていたわけだ。
「――雲母め！　俺とてあいつを殺してやりたいが、そんなことをすれば琥珀様のお怒りを買うだけと言うのに！」
「どうすれば助かる？　雲母さん自身なら止められる？」
「無理だ。注ぎ込まれた毒は、いずれ全身に回る。……いつやられた？　少々、遅いようだが……個人差はあるが……」
　掴まれた直後、巧は【缶詰】を発動させている。もしかしたら、ろっこんのおかげで遅れているのかもしれないと莉鳥は考えた。
「じゃあ、雲母さんが死ねば？」
「知らん。だが、いったん放たれた毒が、雲母が死んだところで消えるということはあるまい」
　それは残念な情報だった。巧には聞かせられないと、莉鳥は小さく嘆息する。
「もう一つ」
と、ここが肝心だった。
「雲母さんなら、藍玉（らんぎょく）さんを倒せる？」
　これまでの質問の中でも、最も意外だったらしい。翡翠は目を丸くし、武道を見つめた。
「まさか――なぜ雲母がそんなことをする！？」
「さあ……でも琥珀さんの命令を無視している時点で、その可能性はあるんじゃないかなって」
　翡翠は何も話さなかった。が、沈黙自体が答えだと武道は思った。

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