【身体測定】ドキドキ♂♀反転戦線、再び！｜リアクション

【身体測定】ドキドキ♂♀反転戦線、再び！

　　　　　　　　　　　　　　　身体測定とは、人生の縮図である。
　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　――シトラス・ガムダン

「メジャー取ってください」
「体重計ここでいいですか？」
「ほらそこ、視力検査ごっこして遊んでないで」

　普段は、ほどよく静かな鷲尾礼美の城である保健室。
　しかし今日は朝から測定助手役の保健委員たちが出入りして慌ただしい。
　忙しい鷲尾先生に代わって指示を飛ばすのは、保健委員長になったばかりの添木牡丹であった。
（保健委員長になって最初の大仕事……身体測定）
　敬愛する鷲尾先生は立ったまま片手を机について、書類に目を通している。その白衣の間に押し込まれたＦカップは今日も素敵だ。よい匂いがしそうな長い黒髪――実際よい匂いがすることを牡丹は知っている――のひと房がはらり、胸のほうに流れ落ちる。それを人差し指でさり気なく耳にかけ、
「今日はよろしくね、添木委員長さん」
　なんて微笑まれた日には、牡丹のやる気は、うなぎのぐんぐん上るがごとしだ。
「保健委員の皆さん」
「はいっ」
　準備作業をしていた音海なぎさ、椎井莉鳥、御巫時子はじめ委員たちは手を止め姿勢を正す。
　牡丹はピタッとかかとを揃えると、凛と胸を張って一同を見回した。
「今年もこの日がやって来ました」
　２年生になり保健委員会に入った浮舟久雨もまた、姿勢を正し、完璧な休めのポーズで牡丹の言葉を聞く。身体測定は初仕事だと意気込んでこの日を迎えた久雨は、冴えた青の髪に象徴されるように、クールで生真面目な完璧主義者である。今日一日を完璧な測定日に出来るか。それが今現在の懸案事項だ。
　そんな久雨を微笑ましく迎えつつも、牡丹には、なにやら不安な予感もあって。
「昨年も一委員として参加しましたが……」
　１年前のこの日。思い出がよみがえり、遠い目になる。
「思えば昨年の身体測定は大変でした……」
「ああ……」
「そういえば……」
「いろいろありました……」
　保健委員たちも遠い目になる。
　しかしッ！　と牡丹は握った拳を胸に当てた。
「我等が鷲尾先生に負担を掛けない為にもこの難事を無事に乗り切りましょう。何があっても……測定のお手伝いに徹しましょうね！」
「「「はいっ！」」」
　元気よく返事をしてはみたものの、なぎさも莉鳥も時子も、心の中では予感してしまっている。
（たぶんだけど……今年もただでは済まないような……）
（だってここは寝子高、何かしらフツウじゃないことが起きてもおかしくないわけで……）
（何があっても笑顔が一番。今年の健康診断も無事に終われたら良いですね……）

　――そして、予感は的中することとなる。

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